株式会社イーウェル アドバイザー
山梨大学 教育人間科学部教授 西久保浩二

前回のコラムで、リーマンショックの爪痕という切り口でわが国の企業の福利厚生制度に対する悪影響について、あれやこれやとコメントしたばかりというのに、今回もまた、東北関東大震災という誰もが自分の生涯において遭遇するとは思いもしない歴史的な厄災に見舞われることとなった。

ああ、なんという無情、非情、激烈なるかな、自然の脅威とは、と長い嘆息を禁じ得ない方も少なくないのではなかろうか。直接的な被害を受けられた東日本の方々の心痛、辛酸に対しては、当事者ではない立場からは、適当な言葉など浮かび得ようもないが、唯々お悔やみ、ご同情を申し上げるほかない。

目を覆いたくなる悲惨な実態のなかで唯一の救いとなったのが、艱難辛苦に直面した日本人が互いに助け合い、譲り合い、励まし合う姿であったのではなかろうか。今はこの姿に対する世界からの賞賛にも微笑返す余裕すらないが、それでも最悪の事態から、なんとか協力しながら皆で脱しよう、前に進もうと懸命に力を合わせる「絆」の存在と大切さに改めて気付かれた方も少なくないのではないだろうか。

これからの課題は再発見できた「絆」をベースとして復興のための再生システムとして、具体的な形、すなわち、体制・組織づくり、制度化、立法化、等々である。要するに、総力を結集した具体的で、効率的なシステムづくりであろう。

余震と停電が続く中、テレビの報道に聞き入りながらも、福利厚生の世界からこの国難ともいえる窮状に何かできることはないか、と熟々考えてみた。何分、十分な検討がなされたものでもなく、思いつきの域を出ないものであることを予めご承知いただくこととして、方向性としてご理解いただきたく、今回は述べてみたい。

まず、平成18年に行った日経連の福利厚生費調査での附帯調査によれば、社宅の充足率(入居率)は7割程度、つまり3割程度の戸数は空いていることになる(図表1)。自治体の提供する勤労者住宅等で不足するとなれば、各企業の判断で手を挙げられてはいかがだろうか。もちろん、従業員あるいはその家族、親族に被災者がおれば、優先提供することは当然であってよい。実費負担もあってよいと思うが、重要なのはタイミングである。16万人近い被災者規模を前提とすれば、公的な資源だけで足りるとは思えない。他にも稼働率の低い給食施設、運動施設、保養施設なども被災者に適宜開放することもできると思うがいかがだろうか、検討願いたい。義援金は汎用性があるから、もちろん重要だが、当面は“現物給付”の必要性が高いと思われる。

近年の福利厚生費の動き

この原稿が公開される頃には、既に用意され、提供されているのではないかと思うが、カフェテリア・プランから個人が義援金として充当できるメニュー開発をアウトソーシング企業各社に期待したいところである。同時に、従業員が拠出する義援金額に、一定率で上乗せするような形で、企業もマッチング拠出してもよいだろう。労使で一体感をもって事に当たることが求められているような気がする。危機意識を共有することで、良い意味での労使の一体感、従業員同士の一体感の醸成に寄与するのではなかろうか。
また、企業は法定外福利費として予算化されたポイントの年間残分の一部を義援金とするコンセンサスを労使で話し合われてもよいではないか。

このような個人、企業からの草の根型の可能性を最大限、知恵を集めて完全復興までの継続的な支援システムとして構築するが、財源としては、おそらく全く足りないだろう。 やはり、復興税として消費税を5年間程度3%程度上乗せなどしてはどうだろうか。復興国債で将来に負担を先送りするよりは健全だろう。これこそが、痛みを分け合う最も合理性の高い財源調達であり、それが原資となって公共インフラ、住宅インフラの整備に支出されるとなれば、乗数効果も大きく東北地方経済、ひいては日本経済に対する底上げ効果も期待できる。

既に、子ども手当、高校・高速道路の無償化、農家個別補償などからの予算振替については野党からも発言されているが、この他にも、ODA予算の有期凍結、法人税減免分、国会議員定数半減、等々の復興予算への充当などいくつもアイデアは考えられるが、与野党含めて、愚昧な政争好きなわが国の政治システムに過大な期待はできない。だから民間から、特に企業社会からも率先して行動を起こすしかないのではないか。

一番、真っ先にやるべきは政党助成金の半減、あるいは一定以上の個人資産をもつ議員歳費の削減かもしれない。少しは、石川遼君を見習ってもらいたいものである。若いのに頭が下がりますねぇ。ホント。

今回の大震災についてはもう一点、付言しておきたい。
震災報道から痛感したのは、現地での自衛隊隊員たちのきめ細かく、誠実な活躍ぶりである。この活躍を目の当たりにして、国家の「最後の守り」、そして極限の非常状態での圧倒的な業務能力の高さという点での存在意義の大きさに改めて、驚いた。筆者は、ご縁があって自衛隊の労務管理のアドバイザーを務めた経験もあり、国家公務員の福利厚生制度の指針づくりにも関わった。そこでの実感としては、彼らの労働環境、処遇は決して恵まれたものではない。削減される予算のなかでのやり繰りに苦労し、また、政権与党から「暴力装置」などといった暴言がなされるなど、社会的地位も中途半端なままである。筆者も含めて日本社会は反省しなければならないのだろう。引き続き、大変な業務を担当していただくが、敬意を込めて頑張ってもらいたいと願う次第である。

いずれにしても、この大震災が経済社会、企業経営、そして個人の生活設計に及ぼす影響は予測できないほど大きなものとなろうし、本当の意味での復興が成し遂げられるまでには長い、長い時間を要することになろう。辛抱比べの持久戦となることは間違いない。

「絆」をどこまで、持ち続けられるか。われわれが試されているということなのだろう。今こそ、永年の福利厚生で培った「絆」づくりのノウハウを提供してもよい機会かもしれない。