イーウェル総合研究所 企業戦略研究会 座長
山梨大学 生命環境学部 地域社会システム学科 教授 西久保浩二

1.中高年に迫られる決断
 最近、不思議に思うのだが、筆者のような年代になると、何かと同年代の友人達との会合の機会が増えてくる。つい先日も大学卒業後に入社した企業の同期入社組の会があって、30年来の旧交を温める機会を得ることが出来た。実は他にも、大学や高校での同窓会などの企画も最近は活発になる傾向が強く、酒席に出かける機会が増え始めている。
 なぜ、こうした機会が増えるのか、という背景というか、要因にはいくつか有力なものがあるのだろう、と考えてみた。
 ひとつには、やはり、参加する者たちに時間の余裕ができてきたのであろう。サービス残業も厭わず、土日出勤もあたりまえ、といったモーレツ社員といわれた働き方をしていた時代もあったわけだが、さすがに社内の職位的には、最前線の営業、生産、研究開発、といったところからは少し後退している。閑職、窓際族...とまではいわないが(笑)、かなり、時間的余裕、裁量性のあるポジションに就くようになったのである。加えて、日本企業自体の体質にワーク・ライフ・バランスの文化が徐々に注入されてきており、制度的な時短施策が浸透していることで、無茶な深夜労働・休日出勤などが物理的にできなくなりつつある面が加勢している点もあろうかと思う。
 いずれにしても、職場での中高年を取り巻く環境が変わってきたことで、例え、平日であっても夕刻の宴席くらいには無理せず、参加できるようになってきたわけである。ご同慶の至りである。
 一方、50歳台も半ばを過ぎると、さすがの元・企業戦士たちも、そろそろ現実問題としての「老後」について、やっと真面目に考え始めるようになる。「いつ頃、リタイアすべきなのか」そして、「リタイア後、どんな生活になるのだろう」「その時の資金は十分なのか」「何を生き甲斐に生きるのか」「健康管理は...」といった、厄介な諸課題が脳裏の一定部分を徐々に占拠するようになる。これらの諸課題に納得できる答えや対策が見つからずに、あれこれ考え悩む状態が包括されたものが、いわゆる「老後不安」と呼ばれるものなのであろう。
 では、こうした老後不安を抱え始めた中高年達がどういう行動を取るようになるかというと、まずは「群れる」のである。ともかく「群れたい」のである。
 集団主義を標榜した日本的経営の下で育った世代の行動特性はなかなか変わらないものであって、要するに、同様の悩みを抱えているであろう、と推測できる御同輩たちと一献、傾けたくなるわけである。それは、同期会であれ、同窓会であれ、はたまた町内会であろうと、実のところ何でもよいのである。不安なるが故に、その不安を共有したいという心理である。
 久々に再会してみると、お互い、外見的には、ずいぶんと変わり果てていても、そこはそれ、若い時期に労苦を共にした仲間達である。有り難いことに一杯の乾杯の後には、かなり突っ込んだ本音トークができる賑やかな宴席となる点が嬉しいものである。先日の同期会でも、そうとうに真剣な、というか、恥も外聞もない本音ばかりで、既に喜劇的というか、コミカルなものとなってしまったトークが延々と続いた。
 その中で、最も多くのメンバーの関心を集めたテーマが、やはり「いつまで(今の会社で)働くのか」、つまり「いつ辞めるのか」という決断に関するものであった。30数年前に初々しい新入社員として、希望と不安の中でいっしょに入職した彼らだが、長い時間の経過を経て、まもなく、各人が人生の大きな出処進退の決断に迫られているわけである。
 小標本なので、日本の中高年諸兄の全体を代表できるものではないが、この同期会標本が宣った選択肢(案)は実に多様なものであった。既に早期退職制度を活用して退職届を提出した慌て者を筆頭に、60歳定年までは頑張る、と当たり前の話を声高に主張する者、とりあえず雇用延長を使って60歳以降も何年かは働くが、不愉快ならばすぐに辞めてやる、と嘯く者、あるいは、バツ1で若い後妻との間に設けた子供がまだ小さいので65歳はおろか70歳までも働かざるを得ないよ、と諦観する者、さらには、当年度末には退職して、すぐにでも国際ボランティア活動を始めようという者、息子と湘南でカフェを開業しようという者........等々。
 わずか30人程度の標本調査であったが、こうした様々な選択肢が論点として提示された。この意味不明なものも含めた多様な人生の選択肢の是非を巡って、あれやこれやの大議論で大賑わいとなった。もう、他人の話など真面目に黙って聞こう、なんと殊勝な態度が残っているものも少ないため、また酔いも手伝ってか、言いたい放題の楽しい(?)会となった。参加した誰もが、大いに参考になりもし、また、それ以上に過剰な情報氾濫で混乱したのではなかっただろうか。当然だが、二次会でも何の結論も出ず、議論の混乱が続いていた。恐らく、この会はこれからも延々と続いて、いずれは、広域型老人会として活動をはじめることになるのであろう(笑)。ともかく、筆者にとっては貴重な財産である。


 さて、いつものとおり長すぎる前置きとなってしまったが、そろそろ本題に.....。


 改正高齢者雇用安定法(以下、高安法)が平成25年4月に施行され、65歳までの雇用継続が事業者に義務付けられた。多くの日本企業が60歳年定年制度を見直し、何らかの延長雇用制度の導入・整備を急ぐこととなったわけである。やや、ドタバタ感のある改正対応ではあったが、各社各様に高齢者雇用について改めて考え、それぞれの対応を始めた。
 今回は、この始まった65歳までの雇用延長義務化について、好タイミングで行われた定量調査の結果なども紹介しながら、人材戦略としての高齢者雇用について考えてみたい。

 まずは人材の調達戦略という視点から考えてみたい。
 図表1は、労働力調査で捉えられてきた年齢階層別の人口推移である。わずかに10年程度の間に、若い人口階層が急速に減少していることがわかる。その一方で、今回の雇用延長の対象層ともいえる従来の60歳年直後の年齢層の拡大基調を読みとることができる。
 これらを母数としての各年齢層の人口の中から、労働力として労働市場に登場し、さらに実際に職を得ることで就業者となるわけである。少子高齢化に伴う人口減少の影響は、若年人口から先に現れることになる。わが国のこうした人口構造の急速な動きは、それまでの人材調達戦略に対して、否応なく大きな変更を迫ることになる。高度成長期のように豊富な若年層のなかから、長期育成を前提として「新卒・男子・正社員」を選別するといった単純な採用戦略だけでは、成長を担う人材量の確保が国内では難しくなっていくことは明らかである。

図表1 若年層・高齢層の人口推移

 少子高齢化という環境変化に直面したわが国が、新たな人材調達源として、最初に注目したのが女性であった。いわゆる「M字カーブ」と呼ばれた、結婚・出産・育児に伴って労働力率、就業率が一時的に低下する現象を捉えて、国内での人的資源の活用上の問題であり、損失であるとされ、様々な両立支援施策や支援法が講じられたわけである。平成15年7月に公布された「次世代育成支援対策推進法」がその代表例である。企業内託児所が各地で設置され、またイクメンがそうした世相を映すトピックスともなったわけである。
 では、現在(2013年時点)、このM字カーブがどうなっているのか。
 図表2で確認すると、もはやM字とみることはできない形状、すなわち、労働力率が落ち込んでいた女性の「35-44歳」あたりに顕著な凹部は存在していない。女性の労働力率全体が男性と比べて低水準である点は変わらないが、結婚退職といったわが国の特殊な雇用慣行による落ち込み等は、ほぼ解消されたといってよい段階ではなかろうか。
 M字カーブの解消そのものは、男女雇用機会均等という観点からも歓迎すべきことであるわけだが、一方で人口減少、生産年齢人口の減少への人材調達のための対抗策としては、賞味期限が近づきつつあることも示唆するのである。もはやM字の凹部からの人材調達に多くは望めないということである。
 ここでもう一度、注目せざるを得ないのが「中高年層」ではなかろうか。
 同図をみるかぎりでは、「60-64歳」の年齢層の労働力率は、男性が76.0%、女性が47.4%とまだかなりの低水準である。ここには、男性、女性ともに大きな人材調達源が存在している。

図表2 年齢別に見た労働力率と就業者率(対人口)

 こうした統計値を改めてみてみるにつけて、今回の雇用延長の義務化の動きを日本企業は、一義的には、新たな労働力調達のチャンスと肯定的に捉えるべきと考えられる。
 先にも述べたとおり、人口減少の進行に伴い、生産年齢人口が急ピッチに縮小する中で、長期的には国内での労働力調達は困難なものになることが予見される。その中で成長の原動力となる人材をいかに安定的に調達できるかが、問われている。スキルを既得した高齢人材の有効活用を改めて考える必然性がある。もちろん、雇用延長には、総額人件費の膨張、人事の停滞、新たな職場開発、等々、多くの課題が内包されていることも事実である。しかし、そうした諸課題を克服しながらも、企業成長に寄与できる人材として活用するための制度開発や運用に創意工夫が求められているのではなかろうか


2.定量調査からみる中高年人材とは
 昨年末に、先の高安法の施行日をまたぐ時期において、従業員の雇用延長に関する意向や意識等について観測を行うために、わが国を代表する大企業グループに勤務する正社員4320名から回答を得ることとなった大規模な標本調査を行った。この調査結果の一部を紹介してみたい。
 まず、本調査時点の結果では、雇用延長を希望する者は、回答者全体の40.9%であったが、加齢とともに、この延長希望率は高くなり、定年が目前に迫った男性の「56~60歳」では68.3%と最も高率となった。またその多くの従業員が、65歳までの長期延長を求めていることが明らかとなった。希望傾向は男性において高く、女性では低く、男女間の格差が大きいことも明らかとなった。

図表3 現勤務先での継続就労意向(性・年齢層別)

 では、彼らが雇用延長を望む理由は何であるのか。
 そもそも、先の高安法改正の目的が厚生年金受給との接続性の確保にあったことを勘案して、従業員の資産保有と関連付けて希望理由の動向を見てみた(図表4)。現時点での金融資産保有額別に、希望理由の回答率の比較分析を行った。 まず、経済的理由をみる中では、顕著な傾向がみられた。
 「生活費が必要だから」「住宅ローンが残っているから」といった理由は、金融資産を保有できていない層や低額な層ほど回答率が明らかに高い傾向をみせた。働き続けざるを得ない低金融資産層が確かに存在しているのである。換言すれば、現役期の間に、必要十分な資産形成を実現することができれば、延長希望率が低下する可能性もある、と考えられる。また、「公的年金の受給開始前だから」という理由は、すべての層で6割を越える高い希望率となっている。この結果からは今回の法改正の意義はあったともいえよう。

図表4 定年後・60歳以降の就労理由/経済的理由
(現在の保有金融資産額別)

 一方、個人的に、より興味深い結果が現れたのは、経済的理由以外の理由である。
 ここでも金融資産保有との関連性が顕著に表れた。
 まず「社会に貢献したいから」「社会に取り残されないため」「働くことが生きがいだから」などの理由の回答率と、金融資産保有額との間に正の相関が現れた。経済的理由と逆の関係性である。資産的に余裕のある層の延長雇用のニーズが、こうした社会志向のニーズや自己実現志向のニーズに基づくことが明らかになったわけである。それはそれて結構なことであろう。
 一方、回答率自体は低水準だが、筆者の最も関心を引いたのが「友人や話し相手が欲しいから」と「家にいるよりも、会社にいるほうが落ち着くから」といった理由である。
 この選択肢表現の開発時点には、ずいぶんと議論になったのだが、最後は「面白いから入れておこう」という好奇心本意の判断になったのである。案の定、平均値としては1~2割程度の延長希望層が、この選択肢にヒットした。狙い通りである。
 これらの雇用延長ニーズをなんと名付ければよいかは難しい。
 前者は「孤独解消ニーズ」であろうか、後者はやはり「会社人間ニーズ」とよべばよいのか、あるいは「家に居たくないニーズ」とよべばよいのか。なんとも、悲哀を感じてしまうものではあるまいか。

 わが国の人的資源管理研究には「会社人間研究」(田尾 1997 他)という著名な研究群がある。高度成長期からバブル期あたりまで、いわゆる「日本的経営モデル」が、帰属組織に対する強い忠誠心や帰属意識をもつ一方で、家庭や個人としての生活を顧みる余裕のなかった「会社人間」を多数輩出してきた、とされた。彼らは高度成長の牽引役となった人々である。
 先の2つの理由への反応は、まさに会社人間世代の最後の残像のように思えてしまうのである。冒頭で紹介した筆者の同期会の同輩の面々にも、この2つの理由で延長希望するものたちが少なくない。

 いずれにしても、金融資産形成が順調に進んでいる層では、このような生きがいや社会や家族との関わりといった高次の欲求、複雑なご事情に根ざして、雇用延長機会を捉えているのである。
 この他にも「健康維持・増進のため」という理由も総ての層で最も高い回答率となっている点も注目される。勤務先での整備された健康対策や通勤等の運動習慣の継続に期待しているのであろうか。

図表5 定年後・60歳以降の就労理由/非経済的理由
(現在の保有金融資産額別)

 では、そうした多様な希望理由によって雇用延長を希望する人々たちだが、仕事や現在の勤務先企業に対して、どのような態度を有しているのだろうか。
 図表6では、延長を希望する層と、定年もしくは定年前での離職を予定している2つの層において、4種の従業員態度変数に対する反応差異を見た。モチベーション(貢献意欲)、モラール(勤勉性)、そして職務満足(仕事および勤務先企業)に関して提示された表現に対して、「(自身が)あてはまる」と肯定した層の割合が示されている。
 当初の想定からは予想外であったのだが、結果的には、総ての態度質問で、延長希望層の方が、60歳定年での退職予定層よりも良好な反応層が顕著に多いことが明らかとなった。つまり、雇用延長によって組織に残存することを希望する層が、相対的に高いモチベーションやモラールを有する人材層であることが示されたのである。
 筆者は、先の同期会での騒ぎの記憶がまだ生々しいので、雇用延長の希望者の中にモラールやモチベーションがこんなに多くいるとは、にわかには信じがたい気もするのだが...。
 会社人間、と揶揄されようと、あるいは家にいても居心地が悪くて落ち着かない、と感じてしまうような不器用な人々であるのだが、自分の仕事や世話になった会社に対しては、実に誠実な態度を引き続き示すのではないだろうか。

図表6 雇用延長希望者の従業員態度

 では、このような高いモラールやモチベーションを有する延長希望者たちを、企業側はどのように遇すればよいのだろうか。
 彼らが延長期間の就業上の重要な要素だと回答した項目が図表7である。
 賃金や労働時間以外で回答が多かったものとして「勤務地」「職場の雰囲気」「経験したことのある仕事」「やりがいのある仕事」などがある。企業側としては有効活用するために、考慮すべき要素となるようである。
 一方、高齢期の就業に対する支援策として、多くの延長希望者が期待しているものとしては「健康管理支援」「介護支援」が挙げられた。確かに、いずれも高齢層特有のリスクに対する反応である。
 健康面においては、延長期間での個人差は若年層に比べて大きくなっていることが予想され、病気加療中の人なども少なからずいるものと考えられ、特段のワーク・ライフ・バランス面での対応が必要となろう。
 介護に関しては、要介護者となった老親を持つ層がかなりの確率で発生していると考えられ、時間的裁量性、経済的支援、ストレス支援など多面的な両立支援が必要になろうかと考えられる。

図表7 定年後・60歳以降に従業員が重視する処遇項目

3.最後に
 さて、このように延長希望層の意識や期待を、最新の調査結果から一部、概観してみると、冒頭でも述べたとおり、今回の法改正に伴う雇用延長義務化が、改めて、人口減少時代における人材調達の好機と受け止めることができるものだ、という確信を持つに至った。

 現時点において、高いモチベーション(貢献意欲)や勤労モラール(勤勉性)を有する優秀な人材層が延長を希望していることが、その大きな論拠のひとつである。決して、生活資金確保のためだけに嫌々、働き続けようとしているわけではない。労働力供給が細ってゆく我が国においては、実に頼もしい存在なのではないだろうか。

 公的年金受給との勤労収入の接続性という生活設計上での必然性があることは言うまでもない。つまり、生活費や住宅ローン返済、老後資金のための就労という経済的動機が基本として確かにあるが、しかし一方で、社会への貢献や生きがい、といった高次の動機も併せ持つ。何より軽度の勤務ではなくフルタイマーとして働こうという強い就業意欲を有する層の多くも希望していることを確認することができた。
 ここでは紹介できなかったが、このように高いバフォーマンスが期待される彼らだが、現行賃金水準からの大幅な下落を受容している。この点からもまさに、コスト・パフォーマンスに優れた人材層となる可能性が高い。
 ただし、この貴重な人材層を有効に活用するためには、いくつかの配慮が求められる点は重要であろう。特に、健康管理や老親介護、配偶者介護との両立支援などは、高齢層特有の難しいリスクである。従前の支援体制を再構築する必要性が高く、より実態に即応できるものに改善することが求められている。
 こうした雇用延長時代への適合の様々な要請が、福利厚生のあり方をさらに一歩、人材活用のための戦略的システムとして進化させることにつながるものと期待される。