今回のコロナ禍は、わが国において長く続いてきた伝統的な働き方にかつてない大きなインパクトを与えることになることは間違いない。そして、このインパクトは2017年に始まった「働き方改革」が提示した方向性を強く後押しする形で変化を加速してゆくものと考えられる。そのなかで今回は副業・兼業について考えてみよう。

2017年の「働き方改革実行計画」以来、副業・兼業に、にわかに注目が集まった。翌2018年には厚生労働省からガイドラインが示され、併せてモデル就業規則の改訂も行われた。
方向性として「希望者は原則として副業・兼業を行うことができる社会にする」ことが再確認された。

こうした政府サイドの前向きな対応がなされる理由はいくつかある。

まずはいうまでもなく、少子化に伴う国内労働供給の先細りへの対応である。
特に、人材難に悩まされてきた中小・零細企業にとっては、副業・兼業が大企業との人材のシェア(共有)が可能となる点で期待が高まった。

 

個人の側から見ても、副業・兼業の規制緩和は魅力的な働き方の選択肢として映っているのではないだろうか。人生100年時代という長寿化社会のなかでの所得機会の複線化と長期的な確保という利点がある。また、未知のスキル獲得にもつながる。

さらにもうひとつの期待、これは経済社会全体としての大きな期待である。

それは兼業・副業を通じて社内外での多様多種の人材による幅広い人的ネットワークが形成されるなかで、活発な相互作用が起こり、そこから、いわゆるオープン・イノベーション、創業、新産業創出といった魅力ある効果が出てくるのではないか、というものである。

わが国では大企業など、どうしても人材を自社内というクローズドな空間に閉じ込めてしまいがちで、そのことが“金太郎飴”という同質的な人材空間となりがちになる。そこではなかなか画期的なイノベーションは起こりづらくなるといわれている。

いずれにしても、副業・兼業には様々な期待感が寄せられているわけである。

 

このように働き方改革によりにわかに注目された副業・兼業だが、その後のコロナ禍という異常事態の発生のなかで、改めて今後どのような動きとなっていくのだろうか。

これまでの労働研究での蓄積なども踏まえながらコロナ禍と副業・兼業の動きとの関係性を考えてみたい。

 

近年の代表的な副業・兼業研究としては、まず小倉・藤本(2006)がある。リクルートワークス研究所の「ワーキングパーソン調査 2000」」の二次分析から当時の副業者の実像を明らかにした。
副業者の特徴として、男性よりも女性で多く、また、年齢は高く、勤務先の従業員規模は小さく、労働時間は短く、退職経験やフリーター経験があることが指摘された。
また副業希望者では、女性より男性で多く、学歴は高専・短大・大卒以上、勤務先の従業員規模は大きく、そして退職経験やフリーター経験がある人が多いとしている。

副業・兼業を実践できている者と希望者との間での対比的な差異が興味深い。

それは、希望者には何らかの阻害要因があることを示唆しているからである。実践できない希望者で男性、高学歴、大企業の従業員が多いという点は、やはり本業での時間的制約あるいは社内就業規則等での制約が強いことを予想させる。彼らが、仮にコロナ禍でテレワークなどによって時間的制約が低減しているとすれば、彼らが希望を実現して副業市場に登場できる可能性は高まる。

また、この研究では両者の意識分析から副業従事者も副業希望者、いずれも転職意向や独立意向が強い点で共通性があり、その一方で、副業希望者は雇用不安が強いが、副業従事者にはその不安はないが就業形態に対する満足度が低いとしている。この結果も、コロナ禍で一部業界で雇用不安の高まっていることが、副業を強く動機付ける可能性を示している。

 

萩原・戸田(2016)では複数の仕事に従事する働き方を「複業」と独自に定義し、その実態と変化に着目した。
『全国就業形態パネル調査』を用いた分析から、労働時間と収入のバランスから本業に対する補助的な位置づけとしての複業の従事者が多いこと。
しかし、一方で、本業と同程度またはそれを超える収入を得ている複業の従事者も一定数存在すること。さらに、複業従事者の特徴として本業の労働時間が短く、勤務時間や働く場所の選択自由度は高く、本業の年収は低いことを明らかにしている。
また、年収1000 万円以上という高所得者での複業者が一定数存在することも発見している。そして、複業従事者では本業の年収と複業の年収との間に正の相関があることを明らかにした。

この研究は今後の副業・兼業の大きな拡がりの可能性を示している。

従来から主流とされてきた生活費補助的な動機での副業・兼業だけではなく、既に本業で高年収でありながら、おそらくその根拠となっている優れた専門性、高い技能性を活かした複業者が登場し始めていることが示されたからである。

本業での高年収層とは一般的に多忙で、責任も重く、副業・兼業などの時間的、精神的余裕は少ないとみられがちであったと思われるが、実像としてはうまく自己マネジメントできれば副業・兼業が可能であり、本業に比例して高収入が得られているわけである。このマネジメントを容易なものとするのが最近のテレワークに代表される時間的、空間的に柔軟な働き方ではないかと考えられる。

 

野杁、松本他(2019)では、副業・兼業を阻害している要因に着目した分析が行われた。

分析結果としては、阻害要因として年齢(45-55歳)、仕事の柔軟性の無さ、高年収などが検証されたが、彼らの事前の仮説に反して、子供有り、被扶養者(女性)有り、介護有り、などが阻害要因ではなく、促進要因であることが明らかとなった。子供の養育や介護などの家庭要因が必ずしも副業・兼業を阻害せず、むしろ可能性を広げることもあるというわけである。扶養の必要性が、その費用の必要性からむしろ副業・兼業を動議付けているのかもしれない。

また、この研究で最も興味深い発見は、テレワークとの直接的な関係性を検証した点である。男女ともに本業でテレワークが導入されている場合は、副業を実践できていることが明らかにされた。この結果に対して「時間や場所に縛られない柔軟性のある働き方をしているほど副業しやすい」と指摘している。コロナ禍以前の研究だが、今日の状況なかで希望を与える貴重な指摘である。

コロナ禍という歓迎せざる異常状況に苦しむ現在だが、もしかしたら副業・兼業が大きな希望の光となるのかもしれない。その時、長時間労働などの問題の緩和も含めて、挑戦する彼らどのように支援するか、福利厚生にも新しい役割が間違いなく求められてくるだろう。