先日、福利厚生に関心のある研究者、実務家が集まる定期的な研究会が開かれ、筆者も出席して、当日の研究報告を興味深く聞かせていただいた。そのテーマは身近な問題であったので大いに活発な議論が行われた。

そこで報告されたテーマとは「生涯未婚者の増大」である。

報告は、この生涯未婚者に関する丹念な実証調査であり、研究成果であり、驚かされる内容で大変、勉強になった。また、福利厚生にとってもこうした従業員のライフスタイルや家族のあり方の懸念される変化は注視すべき動きであることは言うまでもない。

 

わが国の生涯未婚率(50歳時点で婚姻歴が無い人の割合)は、90年の調査以降、急増傾向にある。直近の2015年の国勢調査では男性は23.4%とほぼ四人に一名に達している。女性も同様に14.1%とかなりの高水準となっている。ちなみに90年調査では、男性5.6%、女性4.3%という低い水準であった。しかも男女差はほとんどなかったのである。男性での生涯未婚率の上昇が著しいことがわかる。このような状況では少子化に歯止めをかけることは難しい。

この急増には様々な要因があり、様々な実態調査に基づいた今回の報告では、常識のウソが多々あることが指摘されて非常に面白いのだが、それよりも筆者が強く関心をもったのが各地での、様々な企業での従業員の婚姻に関する支援の実態である。特に、地方の複数の企業が協力しながら若者達の「出会いの場」を創り出そうとする動きに関心をもった。この動きが、これからの福利厚生のあり方、ひとつの進化の方向性を示しているように感じたからである。

自治体主導での「街コン」は既に、各地で積極的に開催されてきた。地元商店街などと協力し、商業振興策としての意義もあって全国で展開されている。しかし、活動を継続するなかで徐々に参加率も上がらぬようになるなど十分な成果、つまりカップル成立、婚約、婚姻とはならないようである。

 

しかし、実は企業主導の「企業合コン」ともいえる支援策ではかなり実績をあげていることが明らかになってきた。
地方ではやはり中小企業が多く、また製造業では男性が多く、サービス業で女性が多いといった傾向があって、企業内の職場ではなかなか適齢期の男女が出会う機会が得られていないようである。そこで考案されたイベントが、複数の企業、特に男女比率が非対称な異業種交流を前提するものである。そのレクリエーション施策の予算は法定外福利費を原資として互いに拠出しあって開催されることになる。

この異業種交流方式のレクイベントは、従業員になかなか好評のようで、いつもの見慣れた自社社員だけのイベントよりもかなり参加率が高まることになる。

もちろん一種の“出会い”の会となるわけなのだが、露骨に婚活イベントと銘打って開催することは禁物らしく、あくまで異業種での「若手勉強会」として募集することが成功の秘訣とのことである。
肉食、草食などと呼ばれる男女様々ではあるが、あからさまな婚活イベントでは、やはり“引いてしまう”ようである。特に、まだ余裕のある適齢期の男女で敬遠されてしまう傾向がある。で、とりあえず、自己啓発の勉強会という公式の形が良いのである。

 

互いに同地方の企業である利点も大きく、同地域の出身者も当然おり、学年は違っても小学校、中学校、高校の同窓卒業生であるケースも多くなる。つまり、最初から共通の話題が多く、都会での自治体主催の街コンのような、第一印象として得体のしれない相手、ではないので話の進むのが早い。つまり結果的に、カップル成立、婚約、婚姻という流れがスピーディなのである。この企業間での異業種交流会は、毎回、参加企業の出入りがあってメンバーも常に新鮮な状態が維持されるので参加率が落ちないこともなく、継続性という点でも優れている。

と、生涯未婚者対策としての婚姻奨励策の成功話なのだが、筆者はこの話の発展可能性は大きいと感じたのである。何を感じたかというと、一言でいえば「福利厚生の社会化」「オープンシステム化」の可能性である。

これまでの福利厚生は基本的に一企業内の従業員と家族だけを対象として、他社よりも少しでも充実した制度・施策を提供することで、労働市場からより優秀な人材を獲得して、定着させ、貢献してもらおう、という発想に基づいていた。
換言すれば、他社に負けないように、自社で独占してやろう、くらいな競争意識でやってきたわけである。もちろん、この深刻な人手不足の時代に労働市場の競争性が大いに高まっていることは事実である。福利厚生は、その競争に勝利するための重要な手立てであることは間違いない。健全な競争意識はあってよい、活力の源ともなるからである。

 

しかし、である。地方社会では大都市圏への地元出身人材の流出がなかなか止まらない。筆者の在学する山梨県でも大きな問題である。また、大企業と中小企業での求人倍率の格差は高まるばかりであり、中小企業の多い地方は都市圏流出と規模格差のダブルパンチとなって人手不足が深刻化しているわけである。

それならば地方企業が自己啓発であれ、文・体・レクであれ、自社の福利厚生予算を持ち寄り、拠出する形でファンディングし、つまりある種の基金化することはできないだろうか。先の婚活イベント、勉強会は好例であり、地方企業が労働市場への対策として戦略的にコラボすることで少しでも充実した、そして活性化した福利厚生が展開されれば地方全体の職場として魅力を高めることができるはずである。企業内従業員に限定されていたクローズな福利厚生が、よりオープンなシステムとして、そして複数の企業の共有財として機能する可能性を高めることになる。

こうした動きは既に以前から経営者団体や経済団体、業界団体等の地方組織でも取り組まれてきた。また、多摩地区ではある信用金庫が地場企業支援のシステムとして教育・研修まで踏み込んだ有料代行システムとして成功させている。また、中小企業勤労者サービスセンターも当初よりこうした主旨を担う目的で創設され、現在は自治体との連携性を高めながら福利厚生アウトソーシングサービスとして全国的に展開されてきた。

しかし、これまでこうした共有化、共同化は外部団体や自治体、金融機関などが主導するもので、当事者である企業はどうしても“お客さん”のような受け身的な立場でしかなかったように思われる。

福利厚生の社会化、オープン化の動きを、さらに進化させて、企業の主体的意思、戦略的な目的意識に基づいて連合体を形成するか、あるいは相性の良いパートナー企業同士の戦略的な提携組織として福利厚生施策の企画、管理、資源の共有を進めることで、個々の企業だけではできない広域的な職場の魅力化をすすめてもらいたいものである。