今年の大学四年生達の就活もようやく一段落といった時期にきたようである。

大学人であり、学内で長く就職支援委員として携わってきたものとしては、有難いことに今年も売り手優位の労働市場が続いており、学生達の就活努力が報われることが多いように感じている。内定数、内定時期も過去の氷河期とは比べようもないほど好調である。

身近なゼミ生諸君たちには就活での様々な局面での助言や指導を積極的にやるように心がけている。アタックリストの作成、ESの添削、模擬面接とできることはやるようにしている。まぁ、それが労働研究者としてのある種の調査活動になることもあっての対応である。

 

経営学者の立場からみると大学には「人材という製品の出荷段階」での最終責任をもつ機関と考えている。幼稚園、小・中学校、高校と長い時間をかけて教育投資なされてきた過程を経て、いよいよ社会人、企業人として自立し、実社会に貢献できる人材として旅立つ最後のステージが大学なのである。製造業の生産過程なら最後の品質検証が行われる段階である。
苦労して開発・生産した製品が日の目を見られるかどうかがかかっており、この段階の責任は重大である。ご両親をはじめ各学校で多くの教員が“良き製品とすべく生産”に関わってこられたわけで、皆々様の努力が報われるかどうか、最終出荷担当の小生にかかっているのでは、と無言のプレッシャーのようなものを感じるのである。

しかし、最近の売り手優位の新卒労働市場において、数多ある企業のなかから大学生たちは何を基準に就活対象の企業を選択し、さらに得られた複数の内定企業のなかから入社先を決定しているのだろうか。

まず就活対象の企業である。わがゼミではアタックリストの作成時の選択である。

2018年にマイナビ社が就活前段階の大学生対象の調査のなかで、就活対象とする企業の選定基準が何かを尋ねている。その結果が図1である。

 

就活で企業選びで最も注目するポイント
「2019年卒 マイナビ大学生広報活動開始前の活動調査(有効回答数:4,466名)」より抜粋

 

 

ここでは最も多くの学生が企業選択のポイントとして「福利厚生制度が充実している(14.3%)」という点をあげている。続いて多かったのは「社員の人間関係が良い(13.8%)」「企業経営が安定している(13.1%)」などとなった。

もうひとつの調査結果もご紹介したい。

今度は、複数の内定を得た学生達を対象とした調査で、その中で最終的な入社企業を決めるポイントが何かを尋ねている。ここでは内定が出始めた4月から以降8月までの月々の変化を追っている。内定先のなかから徐々に辞退を伝えていくなかで、ほぼ最終時点ともいえる8月時点で最も多くの学生が「福利厚生制度が充実している」という点を決定の理由として企業を決めていることがわかる。ここでも「福利厚生」である。いやはや、、、、、

入社予定先企業を選択したポイント
「2018年卒 マイナビ学生就職モニター調査((有効回答数:1,379名)」(8月の活動状況)より抜粋

 

 

小生はこれらの調査結果を講演や講義などでもよく使わせていただくのだが、実は、この結果をどう解釈すればよいのか、色々と考えて、迷ってしまうのである。

なぜかというと、会社経験のない学生たちは実際の福利厚生のことはほとんど知らず、もちろん体験知もないはずだからである。せいぜい知っているの入社希望の企業に独身寮があるかどうか、住宅手当はでるのか、どの程度の金額なのか、といった程度である。福利厚生のごく一部である。
「賃金が高い」という基準ならばまだわかる。学生達にもその意味、価値はある程度わかるはずである。しかし、実際の「福利厚生」というものは「衣・食・住・遊」に渡る広範囲なサービスであり、利用・支給条件も複雑なものもある。
要するに、未入社の者にそれほど分かり易いものではないのである。つまり「福利厚生」も「充実している」のどちらの意味も彼らが十分に理解しているとは考えられない。

なのになぜ、福利厚生、を就活先、入社先の選定のポイントとする学生がこれほど多いのか、である。

恐らく、彼らにとって「福利厚生」という言葉から、ある種のメッセージを受け取っているのではないかと思うしかないのである。では、どんなメッセージなのか。

 

例えば、「生活に配慮してくれる会社」であったり、「働きやすい会社」「和気あいあいとしている会社」などといったメッセージであろうか。そして、共通項として受止めている

 

メッセージは「社員にやさしい会社」ということではなかろうか。「福利厚生」というキーワードが、現代の学生達が望むワークスタイルを提供してくれるのではないか、という簡潔なシグナル情報として作用しているのであろう。

さして、そのしシグナル情報の真偽が入社後に試されるのである。