■期待される福利厚生の役割
 まず、企業にはもう一つ期待したい重要な役割がある。

それは従業員に対する資産形成問題についての啓蒙、つまり“気付き”の機会を提供する役割である。特に、若年期でのそうした機会の提供が求められている。図表3では「金融関係の相談・セミナー(7.1)」「退職前準備教育(セミナーなど)(4.8)」となっているものだが、現状ではライフプラン・セミナーと総称される福利厚生としての情報提供施策である。導入率は未だ低いレベルである。自助努力による資産形成支援制度の導入率

 

このセミナーで最近、定番化しているプログラムがマネーデザインなどと呼ばれているもので、公的年金、自社の退職給付制度を含めた生涯での収支構造を学ぶ中で、早期からの計画的な資産形成の必要性を説く内容である。

このセミナーには先進的な企業では20歳代からの参加を促しており、かつての退職直前セミナーからは大きく変容している。労使共同開催のケースも多く、内容に関しても高度な専門知識を持った多様なアウトソーシング企業・団体を活用してより実践的な情報提供が行われ、自律的な生活設計構築力の涵養が模索されている。

 このライフプラン・セミナーに代表される従業員に対する生活設計、とくに資産形成を啓蒙する機会が益々重要となっている。自助努力ベースでの資産形成を促す上では、企業内での情報提供が大きな役割を担う可能性が高い。

現在の従業員の全世代で老後の生活資金問題に関して、漠然とした不安は有していることは各種調査からも明らかだが、それはあくまで「不安」というレベルであって、確実にくる将来の現実の老後生活問題として認識できているとは疑わしい。換言すれば、正確な個人のシミュレーションや公的年金で試算されている所得代替率等の現実的な予測情報を得ていないがために「不安」という反応となっているのでないかとも推測される。福沢諭吉翁

 しかし、「不安」のまま放置できるほど現実は甘くないことは事実であり、準備期間がより長く残されたできるだけ若い時期での、「気付き」と「着手」が重要になる。

その役割を従業員に対して一定の強制力、勧奨力をもって実行できるのが、勤務先企業が定期的に実施するライフプラン・セミナーなどの福利厚生施策となる。公的年金に依存して「不安」を抱えたままになることなく、自らが戦略的な生活設計意識をもって資産形成に着手し、さらにその行動を継続させるために大きな役割を果たすものと期待される。

 

「気付き」ができれば、次は実際の行動である。小規模企業まで対象とした先の調査での導入率を見る限りでは、資産形成のための職場での自助努力制度の環境が、全ての従業員に整備されているとはいい難い。

しかし、先のとおり貯蓄・負債実態からみても従業員の定年退職後、老後の資産形成が益々困難な状況にあることは間違いない。企業には直接的な退職給付費用の負担がかなり軽減されてきている中で、その余力をもって自社の従業員が自らの努力で安心できる老後準備ができるように側面的な支援をもっと積極的に行ってもらいたいものである。

老後への安心が現役期での良好な勤務態度形成のためにも必要であるという問題意識をもって対応することを期待したい。職域での自助努力型の資産形成制度への加入行動が定着意識、勤労モラールなどに繋がることなどは既に検証されているのである。

まず彼らが自助努力し易い多様な資産形成制度の環境整備、充実が重要である。先の調査結果をみる限り、職域向けの有利な資産形成制度の導入率は決して十分なものではない。特に、小規模・中小企業では導入が進んでいない点が懸念される。依然として企業規模間での賃金格差もあるなかで、若年期からの資産形成への取り組みは中小企業の従業員層ほど、その必要性が高いとも考えられる。人手不足が深刻化している中小企業であるが故に、従業員が長く勤務しながら計画的な資産形成ができる環境を提供することが、安心して定着し、働ける魅力ある企業となるとも考えられる。意欲的な取り組みを期待したいものである。

 

少子高齢化という環境変化というインパクトは、企業、個人ともに様々な適応が求めてくる。今回の老後資金と公的年金を巡る不毛な議論もその表れなのであろう。しかし資産形成という問題は、困難なものであり、労使ともに冷静に、戦略的な生活設計の下で、時間をかけて自助努力として対処するしかない。そのことの「気付き」と「着手」「継続」を、福利厚生というシステムが担うべき時期にきているのではないだろうか。

 

【福利厚生コラム】老後資金、2000万円不足?! ~ “場”としての福利厚生の役割①~

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