本コラムの前回に「平成時代の福利厚生」について振り返ってみた。伝統的な福利厚生のあり方が大きく揺らぎ、変化・変質した時代であったことを確認した。

そして今月、いよいよ新しい時代を象徴する元号、「令和」が発表された。

発表報道を注視していたが、その瞬間は何やら時代の変化を肌で感じる瞬間であった。時代の変化というものは、日々、生じているものであろうが、なかなか実感できる機会は少ない。

 

 経営学には有名な「茹でカエル現象」というものがある。熱湯にカエルを放り込むと驚いてすぐに飛び出して生き延びるが、冷水に入れ、徐々に熱して熱湯にすると死亡してしまうという話である。
つまり、日々の小さな変化に気づかず、無視、放置してしまうと、その重大な環境変化に適応できず組織の生存が危機を迎えるという警告である。

新元号の発表という瞬間は、変化する時代というものを実感できる稀有な好機とすべきなのであろう。

 

さて、では「令和の時代の福利厚生のあるべき姿」と何か。論拠なき妄想レベルまでお許しいただいて、少し大胆に考えてみたいと思う。

 

ー「社会にも開かれたオープン・システム」としての進化ー

 これまでの福利厚生は、一企業、一企業グループという、閉じられた、クローズなシステムとして機能してきた。当然である。企業が費用を負担し、自社の従業員の厚生を高め、生産性の向上を期すことで競争優位に貢献させようとした。それらの経営的効果が、さらに企業の投資意欲を喚起したわけである。

しかし、である。このクローズなシステムとしての福利厚生は、そろそろ限界にきているように思われる。

その理由としては法定福利費の膨張など企業負担の制約がある。また、平成時代に京都大学の橘木氏が指摘したとおり、企業内福利厚生は企業間の格差、ひいては生活者間の格差を増幅させる。また働き方改革などが進行するなかで、労働市場の流動化がすすめば、長期勤続の従業員比率が低下すると一部の福利厚生施策の投資効率も低下する。加えて、非正規比率がここまで高まった現在、正社員だけに限定された施策体系への投資効率にも疑念が生じている。

 

オープン・システムへの変化の萌芽は、平成時代にも数多く見られている。
少子化対応への社会的要請から企業内託児施設が拡がる過程で、複数の企業での共同設立・共同利用が各地で実現している。また、託児施設が地域開放されるケースも見られた。


いわゆる「ハコもの施策(施設付帯型施策)」の稼働効率、投資効率の確保を見越した対応であろうし、地域開放などはCSRSDGsへの対応としての側面、効果も併せ持っている。社員食堂を地域開放する企業、大学なども出現しており、地域社会に開かれた、オープンシステムへの飛躍、進化の実現性は既に確認されている。他にも、レク施策、健康促進施策、空室社宅・独身寮の有効活用、などオープン化容易で自社だけにクローズする必然性の低い施策は数多くある。地方自治体などとの連携も進めるなかで、公的セクターの立場からすれば、民間活力の導入意欲が高まっているなかでコラボレーションの可能性は広いはずである。また、平成に始まったTFT(Table For Two)などの国際貢献の動きも、まさに、グローバルレベルでのオープン化への着実な一歩である。

 

こうした地域社会とのコラボは、企業としてのブランディングにも効果がある。地域内での採用力の醸成を見越した外部ブランディングはいうまでもなく、既存従業員のモチベーション向上にも結び付く内部ブランディングに奏功するはずである。TFTは貧困に苦しむ開発途上国への学校給食等の提供が活動の狙いだが、それに参加した企業は従業員からの信頼、親愛といった大きな恩恵、つまり経営的効果を得ているのである。

「自社従業員だけを可愛がるエゴイスティックな福利厚生」の時代ではないのかもしれない。

 

ー多様性への受容、そして「創造性の喚起、育成」に貢献できる進化ー

 この進化は、もう避けようのない対応であろう。
しかし、筆者が期待したいのは受け身の対応としての多様性に対する受容ではなく、その先にある「創造性への結実」である。

働き方改革の要請の本質は多様性への対応であり、それが労働参加を高め、少子化・人口減少で急速に細る国内での生産年齢人口に少しでも歯止めをかけようというものであった。育児・介護・疾病との両立、兼業・副業、ニート化している若者層、外国人材など、これまで労働市場への参画が困難であった潜在的な労働者に対して、参画も途を開くことを日本企業に求めた。

しかし、単なる労働参加の拡大だけでは、企業にとっては管理コストの上昇、あるいは総額人件費の膨張につながり兼ねない。

大切な点は、この受け容れた多様性を、次の時代の競争力醸成に結び付けてゆくことである。

 経営学におけるイノベーション研究において確認されたひとつの、最大の結論は、「イノベーションは多様性から生まれる」である。
異質な「知」、多様な「知」が出会う事、そこで目的意識、課題認識が共有できるだけのコミュニケーションが成立することである。この点に関して実証研究も数多くある。よく例証されるのは米国における活発なイノベーションの実態である。移民で成立した米国は多国籍、多民族、多宗教が大前提であり、厳しい競争社会でもあり、貧富の格差も著しい。このまさに過酷な多様性社会のなかで数多くのイノベーションが連続的に発生している。ノーベル賞受賞者数が圧倒的でありことや、我々の生活に身近なPC、スマホ、検索、SNSなどもすべて米国でのイノベーションの成果である。

 新時代にわが国の企業に最も求められている競争優位の軸は、こうした活発なイノベーションの源泉となる「創造性」の高揚である。

先のように人材層の多様化が否応なく進むとすれば、この多様性を社内での創造性へと転嫁し、製品イノベーションへと結実させることである。

子育てや介護を経験した社員が、生活目線での新しい製品のアイデアをもたらすかもしれない。副業・兼業で参加している異業種の社員が、思わぬ新事業の構想を思いつくかもしれない。現場で長く顧客と接しているパート社員こそがサービス改善、進化の方向性を見極めているかもしれない。外国人材の受入れを活用できれば、さらに、グローバル製品のアイデアをもたらすであろう。

こうした新たな創造性の芽を、進化した新たな福利厚生が支える職場環境のなかで育むことができれば素晴らしいではないか。

 

さて、迎えようとしている、令和の時代、わが国の福利厚生が大きな進化を遂げることを願いたいものである。

 

 ⇒福利厚生ご担当者様へ -その福利厚生は「時代の変化」に追いついていますか?ー