■福利厚生に求められる対応とは何か
 前回まで、今回の政府主導の「働き方改革」の本質が何かを考えてみた。

それは国内外の多様な人材層に対して幅広く労働参加を求めるものであり、同時にその参画のあり方が、より省時間的であり、効率的なものとすることで、今回の改革の唯一最大の評価変数といえる労働生産性を大きく引き上げようとするものであることが確認された。

またこの狙いを実現する過程において、わが国の労働市場における変化として、単調的で分断的、階層的な特性から、より多様性や受容性が求められ、そして流動性が高まることが推測される点についても指摘した。

 さて、ではこのように働き方改革の狙いとその本質、評価変数、そして労働市場への波及効果が予見されるなかで、福利厚生という人的資源管理制度が新たにどのような役割や機能が求められることになるのであろうか。以下、三つの観点から考えてみよう。

 

■求められる三つの対応
 第一はこれからの福利厚生制度が、改革によって促進される人材の「多様性」と、求められるその多様性への「受容性」への対応を急がねばならない点である。

これまでは高度成長期以来、「新規学卒・男性・正社員」の三点セットという単一的人材像に合わせて画一的に、単焦点的に蓄積、形成されてきた。その点では多様な人材に対する受容性は十分ではない。そうした現在の伝統的福利厚生のあり方を、制度設計・編成・適用基準と予算配分といった全ての点から大胆に、変革することで受容性を高める必要がある。

まずは「同一労働・同一賃金」の議論に代表されるように、これまでの雇用形態別での制度適用、予算配分の発想を転換する必要がある。

これまではいわゆるパートタイム労働法(短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律)によって、通常の労働者との均衡のとれた待遇の確保が漸進的に進めてこられたわけだが、働き方改革が進行し、仮にいずれも正規職としてのフルタイマー、パートタイマーだけに二分されるとなれば、そしてこの二形態間での移動が自由となれは福利厚生の利用対象者、利用権者の定義を根底から見直さざるを得ない。今回の改革は、単に「同一労働同一賃金」を実現しようとするだけではなく、実質的には長時間労働を余儀なくされてきた正社員層での労働時間の短縮と、税制、社会保障、社内手当等との関係からくる就業調整、つまり年収の調整や労働時間の調整の緩和による労働時間の拡大という二面性の変化を求めている。あえて言えば、正社員の非正社員化と非正社員の正社員化という両面、双方での接近的な変化を促している。

 

これまでの福利厚生の考え方の根底には二面性があった。ひとつは長期勤続、長時間労働で高い労働負荷を背負い、幹部職として期待される正社員という働き方を持続させるべく、必要な支援を最大限行おう、という考え方。もうひとつは短期間、短時間で比較的軽度の補助的業務の非正社員には企業からの福利厚生的な特段の生活支援は不要であろう、という考え方である。正社員と非正社員という独立した、分断された二つの労働市場、人材層が存在し、福利厚生は基本的には前者のためのものだという発想といってもよい。

しかし、周知のとおり、女性の高学歴化、社会進出が進む中で彼女達の非正社員比率が5割を越えて、かつ基幹化と呼ばれる正社員と同等の活躍をするようになるなかで、正社員だけの福利厚生というあり方自体がとうに限界を迎えていたわけである。しかし、福利厚生が正社員層において既得権として認識されており、パートタイム労働法によって小出しに非正社員に徐々に開放するというある意味で歪な均等化が進められてきたともいえる。

 

 今回の改革は正社員と非正社員との垣根自体を低くして、さらに行き来を自由にしようという方向で動いており、福利厚生は正社員だけの既得権という考え方そのものに意味がなくなりつつあるわけである。

非正社員への受容性ばかりではない。高齢者、外国人材、兼業・副業者、育児・介護・疾病との両立が必要な人材等々、多くの労働者にとって有効な福利厚生に進化する必要がある。

どのようにして福利厚生を多様な雇用形態、多様な働き方、多様な生活背景をもった人材により受け容れられるものと変革とていけばよいのか。これは予算配分、制度編成、適用基準、供給構造等々、全体的な再構築が必要となるだろう。

 

 働き方改革への福利厚生の第二の対応は、改革が目指している「労働生産性の向上」を明確な目的と位置付けた福利厚生の制度再編成を考えることではないか。また同時に、そうして目的が明確にされたことを契機にしっかりとした効果測定の枠組みの構築を模索すべきとも考えられる。

労働生産性に福利厚生を紐づける関係性については後述したいと思うが、残念なことに、これまで多くの日本企業において明確に関係づけられてこなかった。歴史的にも福利厚生は“企業福祉”とも呼ばれたように、福祉的であり、恩恵的であり、そして成果配分としての色彩が強かったため生産性とは分離されて捉えられてきた。また、これが労働側で既得権化しやすい側面でもあった。企業も従業員ニーズに合わせてより良いものを提供しようという意欲まではあったが、提供した制度・施策によって期待できる企業側の経営的効果、特に生産性を明確に位置づけることに関心が払われなかった。

しかし、法定外福利費として支出される資金は明らかに、人材、従業員に対する「投資」としての意味をもつ。それは採用力、定着性、モラール、モチベーション等々の貴重な経営的効果が得られていることが間違いない事実だからである。そして、これらの効果はいずれも労働生産性と密接な関係にある。

 

 周知のとおり、福利厚生の多様な制度・施策には、それぞれの個性があり、機能の違いがある。
労働生産性改善への処方箋として福利厚生を大いに活用すべきだが、何が生産性を阻害しているのか、各社様々な要因がある。その多様な阻害要因に応じて最適な制度・施策を選択して、重点投資する必要がある。

同じく低生産性に喘いでいる企業であっても、この原因は異なることは当然ある。ならば、その改善策として最適な制度・施策は違ってくる。自社の生産性上の問題点を解明した上で、最適な制度選択と活用を考えることが重要なのである。“なんとなく”や“他社並みに”続けている制度・施策をすべて労働生産性への寄与度という観点で棚卸をしていただきたいわけである。

 

第三は、これまでの硬直的な運営を脱して、よりダイナミックな運営のあり方を目指すことだろう。このダイナミズムを得るにはこれまでのような既得権意識やコストパフォーマンスを無視した制度放置によって固着させない仕組みや合意がどうしても必要となる。

先のように個々の制度・施策の効果測定が適時的に行われたと仮定すれば、そこで支出された投資としての法定外福利費が期待した効果、つまり労働生産性につながる効果をどの程度、得られているかが見えてくる。その投資効率としての適否という観点から制度・施策を随時、機動的にスクラップ・アンド・ビルトできる方式が重要となる。

 

一般に労使交渉等を経て導入された制度・施策に対して従業員側がある種の既得権として認識することは自然である。ただ個々の制度・施策はどうしても陳腐化する。従業員ニーズや期待される品質水準も変わる。また、企業が求める投資効果も変わっていく。それ故に制度・施策そのものに既得権意識から固執すること、改廃に抵抗することは労使双方にとって建設的ではない。あえて従業員側が既得権としてこだわるべきとすれば原資であろう。原資が維持されるのであれば、制度・施策の活発なリニューアルには協力的であってもよいのではなかろうか。時代の要請に応じて、労使が活発な議論を行い先手先手で必要な制度・施策の導入を行いたいものである。それが先の受容性の向上、労働生産性の改善とも密接に関わってくることになる。

このように働き方改革は福利厚生を歴史的な変革を求めているのである。

 

前回までのコラムはこちら⇒「働き方改革と福利厚生①」「働き方改革と福利厚生②」