さて、前回、3つの課題9つの検討テーマ19の対応策という末広がりの多岐に渡る三層構造をもつ改革計画を概観してみたわけだが、果たして全体として何を目指し、何を実現しようとするものなのだろうか、あるいは政府主導のこの改革がわが国の労働市場や企業の人的資源管理、特に福利厚生に対していかなる対応を求めるものととらえればよいのか。このあたりを考えみたいと思う。

まず、政府が目指す方向性は計画の中に「意義」として最終目的が明確にされている。

 

第一は「成長と分配の好循環」の実現である。 働き方改革によって労働生産性を上昇させ、その上昇した成果の多くを労働者に分配(賃金上昇)させることで需要拡大を通じた経済成長を図る。

第二はこの成長の過程で正規と非正規間に象徴される「格差を是正」することを織り込んでいると同時に、
第三として労働制度の抜本改革が企業文化や風土をも変革することで多くの労働者により良い将来展望を持たせることで将来不安から貯蓄に傾きがちな国民を消費拡大へと導こうという狙いもある。

やや欲張りな感も否めないが、こうした政策側のマクロ経済的、社会政策的な目的意識が明確に示されているわけだが、これらはいずれも個々の企業経営とは次元の異なるものであり、我々はもう少しブレイクダウンして捉える必要があるだろう。

 

すなわち、企業の人材戦略およびその実行システムとしての人的資源管理にどのようなインパクトを与えるか、を考えなければならない。また、こうした政策的効果が狙い通りに実現されるためには、媒介関数としての企業が、改革のインパクトを受止め、内部的にうまく消化し、体化する過程が実現されて初めて、労働者生活の改善という果実が得られるものである。

不当な格差が是正され、納得できる報酬が提供され、将来への不安が薄らぐ中で労働参加が活発化し、さらに高いモチベーションをもって仕事に就ける環境を造っていくことができるかが企業に期待されている。 

今回の実行計画の各改革案から発せられる企業経営、人的資源管理へのインパクトの共通点をあえて一言で表すならば「多様性と受容性」ではなかろうか。

 

 図表1に概念的に示したとおりである。
多種多様な生活課題や背景をもつ人々を働く者として、働く時間として、労働市場へ、その中にある個々の受容体としての企業へと参画を強く促そうとする意図が明確である。

女性、若者、高齢者、障害者、外国人材、副業・兼業者、それらすべてに働く者として参画し、参画し続ける可能性を高めようとしている。加えて、「両立」というキーワードの下で、ともすればそのリスクやハンディキャップによって離脱せねばならなかった者たちを仕事との両立可能性を高めることで保持しようとしている。出産・育児、老親介護、病気、障害等々の両立リスクへの対抗力を高めようとする共通点が明らかに見出せる。

 

そして話題を集める「長時間労働の是正」「同一労働同一処遇」「働き方の柔軟性」「産業間移動の促進」などの具体的な改革課題とはその「多様性と受容性」を日本企業において実現する上で乗り越えなくてはならない不可欠な“壁”なのである。

 

育児、老親介護、疾病などの両立問題を抱える労働者にとって「長時間労働」の慣行は仕事を続ける上で、また新たに仕事に就く上で大きなハードルとして立ちはだかる。

老親介護のケースなどでは長時間労働が蔓延した職場ではカミングアウトもできずに、活躍していた中核社員が離職を余儀なくされてしまうことも少なくない。

この長時間労働という壁は、若者、外国人材、障害者さらには副業・兼業を望む労働者にとっても大きな障害となる。多様な労働者、そして働き方を受け容れるためには現在のこの悪しき慣行を改めることが欠かせない。加えて、長時間労働の是正、すなわち時短の実現と合わせて新たな課題として浮上するのは増えるであろう余暇の活用となるだろう。

 

「同一労働同一処遇」についても流通・サービス産業などでは人件費膨張を招く大きな経営リスクと認識されているであろう。確かに現在の正規・非正規の賃金格差は2016年時点では所定内給与額ベースで 1.5倍、年収ベースで 1.8倍程度と大きい。
この格差をみても確かに短期的にはそうした人件費膨張リスクはある。

しかし、現在のわが国の非正社員層はこれまで十分な能力開発もなされず、正社員のように特段に定着を図り、高いモチベーションへと向上させ、それを維持しようという対応が十分になされてこなかったといえる。
実は、そこに労働生産性の伸びが期待できる大きな“糊代”が残されている可能性が高い

勤続年数をみても2017年で12.1年と5.8年と二倍以上の大きな差がある(厚生労働省「賃金構造基本統計調査」での一般労働者と短時間労働者)。つまり勤続に伴うスキルの蓄積も必然少ないわけである。
 今回の働き方改革を契機に正規・非正規という枠組みを超えた人的投資が進み、その成果が組織全体での生産性の向上に結実できる対応が求められている。

 

多様な人材、多様な形態、多様な生活課題を伴った人々の労働市場、企業への参画を促すことは、必然的に職場での「多様性」を飛躍的に高めることになる。しかし現在の日本企業にその多様性を受け容れ、活躍や貢献を実現できるだけの包容力があるのか。つまり「多様性への受容性」こそが働き方改革が企業経営に突き付けられたインパクトの本質なのである。

この「多様性への受容性」を企業の人的資源管理システムにおいて、いかに整合的に実現するのか。筆者はこのさらなる受容性の向上の一旦を担うべきが福利厚生の新たな役割であり、改革と進化が求められる所以ではないかと考える。

 

また、今回の働き方改革の成否は、先の政府か世話の「意義」にもあったとおり、単なる受容性の向上だけには留まることは許されず、世界的に劣後する労働生産性の向上を実現することにある。この労働生産性への貢献に関しても、これまでの福利厚生では必ずしも明確に意識されてはこなかったように思われる。目的意識として労働生産性をひとつの評価尺度として福利厚生の新たなあり方を検討しなければならない。

次回はこの働き方改革と福利厚生との接点、そして改革への貢献の道筋について考えてみたい。

 

⇒前回のコラムはこちら「働き方改革と福利厚生①」