働き方改革案には、これまでのわが国の伝統的、慣習的な労働慣行、雇用と処遇のあり方に大きな変革を迫る提言が数多く盛り込まれた。官民をあげてこの改革が推進され始め多様なワークスタイルの出現が期待されている。

本コラムでは、数回にわたりこの「働き方改革実現計画」を概観、そこで迫られている企業にとっての変革の本質とは何かを考える、と同時に筆者の関心領域である福利厚生との接点、つまり「働き方の変革に伴う福利厚生側での適応の方向性、可能性」について検討してみたい。

 

まず、改めて改革案全体を、いくつかの接点に着目しながら概観してみたい。

働き方改革を実現するための計画案の全体像、体系の起点は「働く人の視点に立った課題」が大きく三分類に設定される。その中に具体的課題としての3つの課題が標記された。

その課題に対して個々の「検討テーマと現状」が9つ整理され、その個々の課題に呼応する「対応策」がさらに19項目提示された。つまり、3つの課題、9つの検討テーマ、19の対応策という末広がりの三層構造をもつ体系である。

 

第一の「課題」は「仕事ぶりや能力の評価に納得して、意欲を持って働きたい」である。
そのための「検討テーマ」が

① 非正規雇用の処遇改善
② 賃金引上げと労働生産性向上

の2点が設定された。

そしてここでの①の検討テーマへの対応策のひとつに、今回の働き方改革の本丸の一つといわれる「同一労働同一賃金の実効性確保」と「非正社員の正社員化」がある。特に前者は正社員と非正社員との格差を指摘される福利厚生の改革と密接に関連する。また労働生産性の向上という改革案全体の成否が評価される目的に対して福利厚生にも明確な貢献が求められてくる。

 

第二の「課題」は「ワークライフバランスを確保して、健康に、柔軟に働きたい」と「病気治療、子育て・介護などと仕事を、無理なく両立したい」に再分類されている。これらの課題に対応する検討テーマが最も多く5つ設定された。

伝統的な日本人の働き方の中にあった様々な硬直的な制約を緩和し、出産・育児や老親介護といった生活リスクの高まりや自由なワークスタイルへの希求、多様な人材の就労ニーズに応える改革として位置づけられる。

福利厚生にはすでに様々な両立支援策があるが、さらなるブラッシュアップや拡張が期待されることになる。

ここで最も注目された検討テーマが今回の働き方改革のもう一つの本丸といわれる

③「長時間労働の是正」 である。

 最終的には労働基準法改正を伴う罰則付き時間外労働の上限規制が対応策として示されることとなった。これは70年ぶりの改正となる労基法36条の改訂であり、特に無制限の長時間労働の温床とされてきた「特別条項」にも一定の上限制約がなされる。この時短の推進は、必然的に従業員たちの余暇活動や健康増進活動の拡充など福利厚生の対応の場を拡げることになると考えられる。

 

「ワークライフバランスを確保して、健康に、柔軟に働きたい」への検討テーマには長時間労働だけではなく、

④「柔軟な働き方がしやすい環境整備」

が新たなテーマとして議論の俎上に載せられ、そして対応策のひとつとして「副業・兼業の推進」が検討された。

日本人の古い伝統的な就社観を打破する働き方となろうし、異業種での就労体験によって従業員の創造的な成長なども期待されている。先行企業ではストレス低減などの健康経営の実現にも活用できるといった報告もなされており、可能性を秘めた改革とも考えられる。もちろん、深刻な人手不足で疲弊する小売業、外食、運輸、福祉などの業界にも力強い助っ人、ピンチヒッターを得るチャンスにもなる。一方で兼業・副業者の健康管理や自己啓発の在り方などの課題も浮上することとなろう。

 

また、もうひとつの「病気治療、子育て・介護などと仕事を、無理なく両立したい」という広範囲の両立問題もまさに福利厚生の担当領域である。

特に検討テーマの

⑤「病気の治療、子育て・介護等と仕事の両立、障害者就労の推進」

のなかで取り上げられた「治療と仕事との両立」は高齢化が進行し、高齢者就労が拡がるなかで福利厚生における喫緊の対応課題であろうし、わが国の競争力向上のための課題である労働生産性の向上ともプレゼンティーズム問題として密接な関係がある。

 

第三の「課題」では、「ライフスタイルやライフステージの変化に合わせて多様な仕事を選択したい」

と、「家庭の経済事情に関わらず、希望する教育を受けたい」である。ここで検討されたテーマと対応策は、この二課題に対して、さらに

⑥「女性・若者が活躍しやすい環境整備」
⑦「雇用吸収力の高い産業への転職・再就職支援、人材育成、格差を固定化させない教育の充実」
⑧「高齢者の就業促進」

⑥への対応策としてはまず女性にフォーカスした結婚退職女性のためのリカレント教育等の職業訓練の充実や、パートタイム女性の就業調整対策、正社員女性の復職推進などがテーマとされている。また、若者には就職氷河期世代の無業者対策と女性と同様に職業訓練の拡充を通じた再就職支援、そして貧困問題、格差問題と関連した対応としての給付型奨学金が検討された。

最後の検討テーマが「⑧高齢者の就業促進」であり、継続雇用・定年延長支援、高齢者と企業とのマッチング支援などの対応策が検討されている。

女性、若者、高齢者といった就労上の課題やリスクを有する人材に対していかに活躍できる快適な職場環境を提供し、定着を図るか、福利厚生が貢献できる分野は数多くあるはずである。

以上、計画案を概観しただけでも福利厚生との接点は実に数多くあり、また福利厚生が最も有効な対応策と考えられる課題ばかりである。こうした多面的な要請が福利厚生の今後のあり方を決定していくのではなかろうか。