昨年末に2016年度7-9月期の有効求人倍率が厚生労働省から発表された。現在のわが国の労働市場は政権交代以降、長らく売り手基調(需要過多)を強めて来ているが、その傾向は衰える気配がない。特に、非正社員層(パート)での状況は著しくタイトで、直近では全産業平均の有効求人倍率で実に1.67倍にまで上昇している。このような厳しい人手不足は職業別にみるとさらにその切実な状況がよくわかる。販売、介護、飲食、運輸等のいわゆる非製造業において主力戦力となっている常用的パートタイマーの有効求人倍率は既に3倍を超え5倍、7倍といった極めて高い高水準にまで達しているのである(図表参照)。

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上記:一般職業紹介状況(職業安定業務統計) 厚生労働省(2016.12発表)より

このような高倍率ともなれば、もはや大企業、中小企業を問わず必要な人材調達は困難となり、慢性的、日常的な人手不足状態に陥っているであろう。常態化した人手不足のなかで常に発生するのは既存社員層での長時間労働やストレス蓄積にともなう疲弊である。またこうした需給逼迫を映してパート職の時給単価も上昇を続けており、労働コストの膨張が並行して進行していることはいうまでもない。サービス業、飲食宿泊業、運輸サービス、介護サービス業等にとっては、まさに経営の根幹に関わる問題となりつつある。

一方、こうして労働市場の厳しさが一層深刻化するなか、で昨年9月に「働き方改革実現会議」が設置され、以来、既に五回の開催を経て様々な議論がなされている。この改革プランの柱ともいうべき論点は9点ある。

第一回会議冒頭での総理発言で整理された論点は、

①一労働・同一賃金(非正規雇用の処遇改善)
②賃金引上げと労働生産性の向上
③長時間労働の是正
④雇用吸収力の高い産業への転職支援とそのための教育問題
⑤副業・兼業等の柔軟な働き方
⑥働き方に中立的な社会保障・税制による女性・若者の活躍支援
⑦高齢者の就業促進
⑧治療、子育て、介護と仕事との両立
⑨外国人材の受け入れ 

9点となった。

一見すると論点が幅広く多くかなり拡散している感も強いわけだが、これらはすべて国家的な中長期の「成長戦略」としての「1億総活躍社会」の実現ために必要な手段として位置づけられている点で統合的な議論とされている。つまり“成長に資する働き方と何か”が模索されているわけである。

 これら多くの論点のなかでも特に注目を集めているのはやはり「同一労働・同一賃金の実現」と「長時間労働の是正」の二つのテーマであろう。

 さて企業経営にとって厳しさを増すばかりの労働市場のなかで、さらに政府主導の「働き方」に対する構造的な変革が求められようとている。大きな労働改革を実行するには、あまりに厳しい市場環境ともいえるだろう。特に、先のような深刻な人手不足に直面するサービス業、非製造業では苦しい状況にある。どのような対応を目指すべきなのであろうか。おそらく人口減少が着実に進行するわが国では、人手不足現象は今後、長く幅広い産業、業種にも蔓延する可能性も否定できない。もはや小手先での弥縫策だけでは克服が困難とも予想される。

ひとつの避けられない方向性は、低人件費を前提としたビジネスモデル、いわばデフレ型ともいうべきビジネスモデルに対して一部修正を加えることに着手せざるを得ないのではないか。36524時間営業、当日・翌日配送、低価固定料金体系(ワンプライス・モデル)、規模経済性を狙った多店舗展開、等々、バブル崩壊以降の長いデフレ環境下で開発された多くのビジネスモデルの成立基盤が失われつつあること明らかである。すなちわ、低コストの非正規雇用が大量に調達することが可能で、一方でそれら非正社員層を補完する正社員層には慢性的な長時間労働が余儀なくされるという二つの非対称な働き方を両輪として成立したビジネスモデルの存続はもはや難しく、限界にきているように思われる。少なくともこのような低コスト労働依存型のビジネスモデルだけでの持続的な成長は望めないことは間違いないであろう。既に一部の企業では24時間営業の停止や低採算店の閉鎖、過剰なサービス水準の見直しの動きが出できている。これは経営的な後退というよりも、人材価値を改めて見直さざるを得ない戦略的な撤退戦略ともみることもできよう。

もうひとつ企業としてやるべきことがあるのではないか。

それは働くことの魅力、働く楽しさの実現であり、生活と働くことの本当の意味でのWinwinの関係性をもった両ワークライフバランスへの支援、環境づくりである。

例えば、改革会議でも副業・兼業等の柔軟な働き方が推奨され、また大きな戦力となりうる高齢者の就業促進が議論において俎上に載せられている。これまでの低賃金の非正社員と長時間労働の正社員という非対称人材モデルでは、双方にとって働くことの魅力や楽しさを享受することができなかった。副業・兼業を包含したワークシェアリングを本格的に推進することと同時に、その過程でワークライフバランスをさらに高い次元、多様な選択肢へと発展させることで働くこと本来の価値を多くの労働者で分け合える可能性があると考えられる。

いち早く、兼業・副業を推進し始めた先進大手企業での従業員の申請内容をみると多種多様な職への希望に溢れていた。それは彼らの好奇心やチャレンジ精神を映すもので、まさに働くことの“楽しみ”を希求した姿であった。このケースでのワークライフバランスとは本業と副業、という二つのワーク間でのバランスも意味している、つまり“ライフ”としてのワーク(楽しい兼業・副業)での発想力や経験知を養うことで、もっと本業での仕事の付加価値を高めようとしているわけである。こうした新たなワークライフ(ワーク?)バランスも面白いではないか。ワークとライフの二分法、対立図式ではなく、両者の境目があいまいとなって、色々な楽しみ方があってよいのである。

個人が生活であれ、仕事であれ、それを本当に楽しむことができれば、従業員個人の本来的持っていた、創造力、発想力が開放、開発されるとともに、人的ネットワークも拡がっていくことになり、新しい価値を生み出すビジネスが創出される可能性が高まるに違いない。兼業・副業の拡がり先の人手不足業種での新たなワークシェアリングの担い手確保の可能性をもたらすことも期待され、さらに、そうした現役期からのダブルワーク経験が高齢期になってからの充実できる就業機会の開発にもつながってゆくこととなろう。意外と働き方改革のなかで一番、面白い起爆剤になるような気がするのである。

深刻な人手不足の中での働き方改革、一見、到底越えられないハードルにも見えるわけだが、思い切って発想を拡げてみたら新たな成長の明かりが見えてくるのではないだろうか。