東京医科大学大学院卒業 東京医科大学 眼科 兼任助教 永田眼科クリニック 眼科 勤務医 
Gift Hands 代表 三井ホーム株式会社、佐川急便ホールディングス他 三宅 琢

 

私は産業医、眼科医、コンサルタントと言う三つの業務を軸に、様々なシーンで「気づき」の処方箋を発行する、マルチ産業医として働いています。今回は「生きる」を活性化するための「気づき」の処方箋について紹介させて頂きます。

 

①医師(眼科医)としての処方箋:成功体験と情報ケア 

患者にとって「生きる」を活性化するとは何を意味するのでしょうか?病院等で働く一般的な臨床医における治療の対象は病気であり、臨床の現場では、病気を正確に診断し薬を処方する技術が求められます。一方で、現在もなお治療困難な病気は存在します。では、治療の困難な患者に対して臨床医は何を処方するべきでしょうか?

それは、「回復しなければならない」という思い込みによる意欲の低下を防止することです。患者のニーズを正確に汲み取り、病気や障害によって起こる困難を改善するための情報提供、すなわち「気づき」を与えることこそが処方箋であると私は考えています。

<事例1>
「全盲の若い女性」の場合
・ニーズ:海外旅行を一人でしたい
・困難:外国の紙幣の識別ができない
・患者の強み:英会話力、高い社交性、白杖を利用した移動能力

・気づき:見えなくて困っていたのは紙幣ではなく紙幣情報である事
・処方箋:スマホでの紙幣識別アプリの紹介

上の例はシンプルなアプリの紹介が患者の困難さを改善し、ニーズを満たした一例です。私の外来では「病気」を診断し「治療」するのではなく、「ニーズと困難」を把握し「気づき」を処方します。治療が困難な患者における「生きる」を活性化するために必要な処方は必ずしも治療ではなく、情報障害による不必要な意欲の低下を防ぐための小さな成功体験と情報の提供だと私は考えます。

 

②産業医としての処方箋:医療とキャリアのナビゲーション

労働者にとって「生きる」を活性化するとは何を意味するのでしょうか?一般的な臨床医のゴールが「疾患の治癒」であるのに対して、産業医のゴールは「健全な就労」です。働く人々にとって「生きる」とは自立して収入を得て生計を立てることです。
多くの働く現代人は業務内容の不適合によりメンタルの不調を発症しています。その際に必要な処方箋は、自身の強みと弱みを踏まえて働き方を最適化することです。

<事例2>
 「視力の低下した男性社員」の場合
・ニーズ:作業効率の低下によるメンタル不調の改善
・困難:書類やPCの画面が見えない
・患者の強み:英語力、コミュケーション能力

・気づき:障害は自分の中にではなく就労環境に存在すること
・処方箋:聴覚の活かされる部門への異動(海外電話窓口業務)

上の例では視覚情報を処理する仕事から聴覚のみで処理できる業務内容へと業務を変更することで、就労継続が可能となりました。企業が社員の特性を正しく評価する事はメンタル不調の発症を予防します。

産業医は人事と連携して医学的判断に加えてとキャリアナビゲーションを共に考える事でメンタル不調の社員の復職後の再発率は格段に下がります。

労働者を中心とした産業医、人事、産業保健スタッフの連携のとれた就労環境への気づきのナビゲーションは、生き生きと働ける職場を作るための気づき処方箋であると私は考えます。

 

③教師(研究員コンサルタント)としての処方箋:学び方の配慮

学生にとって「生きる」を活性化するとは何を意味するのでしょうか?
学生にとって「生きる」とは「学ぶ」ことに他なりません。あまり知られていませんが、世の中には文字や数字だけが読めない等のとても局所的な困難さを持つ人が存在して、周囲の理解を得にくい状況があります。私は彼らに普通とは異なる学び方を提案します。

<事例3>
 「読み書き障害を持つ学生」の場合
・ニーズ:学習効率の低下による不登校の回避
・困難:教科書や板書の文字が読めない、書けない
・患者の強み:幼少期よりIT機器を使っている

・気づき:学び方を変えることの大切さ
・処方箋:電子教科書による読み上げ、音声入力によるノートテイク

上の例では学び方を変えることで学習の困難を改善しました。学ぶことのゴールは知識の習得と理論の構築であり、その方法が重要な訳ではありません。学生の学ぶ意欲を低下させないためには、本人にとって最適な方法で学ぶことと、その学習方法が許される教育環境の整備が重要です。

 

④マルチ産業医としての自分への処方箋

私のマルチ産業医としての使命は、様々なニーズと困難に対する気づきを得るために日々学び、気づきの処方箋を実践し社会に発信し続ける続けることです。
治療困難な患者、迷える労働者、困難さを抱える学生、彼らは皆私にとっての生きた教科書であり、学びと気づきの処方箋と言えます。私はこれからも彼らの「生きる」を活性化する気づきの処方箋を発行する努力を続けることで、マルチ産業医としての人生を楽しみながら歩み続けていきます。

■ 三宅 琢氏 略歴
三宅 琢氏

平成17年 東京医科大学卒業
平成24年 東京医科大学大学院卒業
東京医科大学 眼科 兼任助教
永田眼科クリニック 眼科 勤務医
Gift Hands 代表
平成25年 三井ホーム株式会社、佐川急便ホールディングス他 嘱託産業医
東京大学先端科学技術研究センター 特任研究員
平成26年 株式会社Studio Gift Hands 代表取締役
網膜再生医療研究開発プロジェクト 客員研究員
株式会社ファーストリテイリング 本部産業医
平成27年 神戸先端医療センター病院 眼科非常勤医師
臨床医、研究者そして産業医として働く傍らで、株式会社Studio Gift Handsの代表として視覚障害者ケア情報サイトを運営し、ビジョンケアの紹介やコンサルタント業務を行う。またデジタル機器を用いた新しいケアを行うイノベーターとして全国のApple Storeや盲学校、視覚障害者支援施設や大学等でiPadとiPhoneを用いたデジタルビジョンケア(視覚に障害があるため生活に何らかの支障をきたしている人に対する医療的、教育的、職業的、社会的、福祉的、心理的支援)に関するセミナーや講演等を行っている。