産業医科大学 産業衛生教授 浜口 伝博

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「整理、整頓、清潔、清掃、しつけ」は職場の安全と衛生を進める際の標語として、誰でも知っている有名なキャッチフレーズです。語調もよくて言いやすく、それでいて要点をよく踏まえていますので、安全衛生の5S(すべてが「さ行」)として全国津々浦々の事業場で飛び交っています。

なんと言っても安全の基本は「整理整頓」ですし、衛生の基本は「清潔清掃」です。そして、それらが職場でしっかりできるためには、人への「しつけ」こそが重要なのです。

やはり5Sが徹底できている職場では事故は起きません。また5Sが徹底されているような事業場には、高い規律意識やチーム意識、達成に向けた職場の向上意欲なども感じます。長年産業医をやっていますと、安全衛生・健康管理という活動には、職場の文化や気質、その企業の理念や風土までがよく表れることがわかります。

さて、産業医活動においても、語調がよくて言いやすく、それでいて要点をよく踏まえているという5Sはないものかと思い、以前より気に入ったフレーズを作っています。
それは、Science, Structure, Strategy, Skill, Support, の5Sです(並ぶ順番にも意味があります、笑)。

これらを使うことで、産業医は、科学的にアプローチし(Science)、組織活動として(Structure,)、計画運営に加わり(Strategy)、管理技術をもって(Skill)、事業場の安全衛生・健康管理を推進させる(Support)、という専門家なのだと説明することもできます。

この産業医5Sは自分でもけっこう気に入っているので、医師会での研修会講師として「産業医のあり方」をお話しさせていただく際には講義の目次としてよく使っています。

以下に5Sのポイントを箇条書きします。

1. Science 科学する

産業医には職場を「科学する(科学的に考える)」視点と能力が必要です。職場に存在する傷病リスクを拾い上げ、どのリスクが、どのように、現在の職場問題や労働者の健康問題に関連しているのかを検証できる力が必要なのです。現場を観察し、そして分析、評価、判断をして、解決のための最適解にたどり着かなければなりません。さてこのとき、産業医学には「科学する」際の公式があります。それは、作業環境管理、作業管理、健康管理、の3つのステップにて検証をしていく方法です。職場に漂う原因物質の同定(作業環境に問題)、不適切な労働態様のために労働者に負担がある(作業行為に問題)、実際に異常値が存在し生体影響が観察される(健康に問題)、という「曝露-反応」系を基本モデルとする健康管理の方法です。

2. Structure 組織する

我が国は労働安全衛生法(以下、安衛法)において、事業者の業種と労働者規模に応じて整備すべき労働安全衛生管理体制が細かに取り決められています。事業者は法律で指定された専門スタッフ(産業医、衛生管理者、安全管理者等)を配置し、彼らに権限を与えて活動させ(法的にも権限付与されている)、安全衛生委員会(衛生委員会)を定期的に開催し、組織だって事業所全体における安全と健康の推進に取り組まなければなりません。

3. Strategy 戦略する

労働者の安全と健康を確保しようと思えば、事業者は法律を脇に置きながらも法律にとらわれず、独自の安全健康システムを開発する必要が出てきます。事業所がかかえる独自リスクを踏まえながら、かつ具体的な対策を提案していくプロセスはコンサルティング作業とも言えますが、まさに現場のニーズに合致した諸施策を提案できる企画力こそ産業医に期待される能力です。医師であるからこそ「人間と労働との適応を最大化」できなければなりません。

4. Skill 管理する

Strategy の趣旨と方向性、達成期間等をしっかり理解して、職場単位ごとに行動計画を作成するのです。その際のポイントは、ゴールとなる目標地点から「逆算」して現実とのギャップを客観的に認識し、徐々にそのギャップを埋めるための戦術を具体的に、かつ実行可能な行動目標として分節して設定していくのです。行動目標と活動期間が明確で、「何のためにこれに取り組むのか!」の社員たちの目的意識さえあれば結果は必ずついてきます。あとはそのプロセスを管理するだけです。

5. Support 支援する

産業医の任務は、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通して、労働者が健康的な労働生活を過ごすことができるように専門的立場から指導・助言を行うことです。これらを実現する医師であるという意味において、産業医は、産業医学の専門家であると同時に、産業医学の実践者でなければなりません。 産業保健の理念や労働衛生の知識に精通して、現実に労働者の健康障害を予防し、心身の健康を保持増進するための方策を事業者に提案し実行へと誘導していく能力が求められます。そして、労働者に対しても、災害防止意識の向上と健康増進のための自己管理を徹底させる教導能力も求められます。実際には、健康診断等を通して労働者への健康支援を行い、一方で管理職教育や人事プログラムへのアドバイスを通して事業者を支援するという両面の作業を担当することになります。