日本医師会認定産業医 労働衛生コンサルタント(保健衛生)
キャリア・コンサルティング技能士(2級) 藤井 紀男

最近、健康診断の結果の解釈に関する記事をよく目にされませんか?

 4月はじめに新聞やテレビで、この頃では大衆誌や女性週刊誌でもとりあげられているようです。
 きっかけは、日本人間ドック学会と健康保険組合連合会が行った共同研究の中間報告が公表されたこと。詳細は、人間ドック学会や健保連のホームページで「新たな健診の基本検査の基準範囲 日本人間ドック学会と健保連による150万人のメガスタディー」をご覧いただければと思いますが、趣旨は「ドック受診者の膨大なデータから健康な方たちの値の基準範囲を作成した。中には専門学会の値とはかけ離れたものもあった。」という内容。
 かけ離れたものとしてLDLコレステロール等が挙げられており、週刊誌等は「健康な人に不要な治療が行われているのではないか」といった論調での記事も掲載し、関係学会からは「誤解を生む」といったコメントが出されたりしています。


検査値の「正常・異常」の判断に関し、私なりの考えを書かせていただきます。

 ご関心のある方には、もう一つご覧いただきたいホームページがあります。「日本動脈硬化学会」「動脈硬化の病気を防ぐガイドブック」で検索し、学会の「一般啓発サイト」を探して下さい。この中の「動脈硬化とは」に「なぜ、脂質異常症は治療した方がよいのか」がわかりやすく書かれています。
 私なりに要約すると、例えば、LDLコレステロールが高いという状況は「今・現在の体調が問題」ということより、「将来、心筋梗塞や脳梗塞等の重大な病気を引き起こす蓋然性・危険性が高い」という観点から「異常(=下げておいた方がよい)値」が示されているということ。つまり、前述の人間ドック学会等の「今・現在」健康な人たちの値と、専門学会が「将来にわたって」健康を維持することを目的に示した値の間に相違があることは、ある意味「当然」ということになるでしょう。


私たちは、どういう視点で「正常・異常」を考えればよいのでしょうか?

 我々そして皆さんが携わっている健康支援サービスは、「多くの方たちが病気や障害で悩まされることなく過ごせるように支援する」という観点が基本にあると思いますが、立場や目的によっては、軸となる視点が異なるかもしれません。
 例えば、健康保険組合の場合、「皆で支えあって保険料を大切に使っていくこと」が重要な視点であるとすると、「多額の医療費がかかるような状態にならないよう早めに治療を行っていただく」「病気そのものにならないようにしていただく」ために遠い将来の発症リスクまでを見据えた厳しめの判断をすることも必要になるでしょう。特定健診・保健指導の導入は、こういった考え方が背景にあると理解しています。
 一方、産業医や勤労担当部門では、「安全に仕事をしていただく」「仕事が原因で健康を害することがないようしていただく」という視点を最優先に考えた場合、現在もしくは比較的近い未来に「過労死」や病気等で仕事が続けられない状況となることを回避するための就業制限等を行うかどうか「かなり重症」のラインで判断する場面もあるでしょう。
 それぞれの役割・立場によって、医療機関への受診や保健指導をお勧めする強さ=「正常・異常」のラインを判断していくことが求められているのです。


健康診断結果への注目が高まっています。健康支援につなげていくチャンスかもしれません。

 「今・現在」健康であることと「将来にわたって」健康を維持できるということは、必ずしもイコールでないことは前述しました。しかし、このあたりの理解が十分でない方たちも多いように思います。私も以下のようなやりとりを時々します。


<Aさん:中等度の脂質異常と高血圧があり、昨年は保健指導、今年は(データが悪化し)受診勧奨の対象となっています。>

Aさん:今、体調は悪くないし、とやかく言ってもらう必要はないよ(意訳)

産業医:Aさん、支障がないから、というお気持ちわからなくもないんですが、この状態で放っておくと、日に日にAさんの動脈硬化が進んでしまうくらいの値なんです。脳卒中とか心筋梗塞とかで倒れるのはまだ先のことかも知れない。でも、一生懸命働いていただいた末、定年になった途端に・・・というのも辛いかな、って思いませんか?

Aさんは、少しでも良い値になって再検査受けたいとのことで、その後、減量等にもトライ。これが講じて値が改善し、現在もキープしておられます。


 私は、日頃から、「丁寧な説明を行うこと」「理解していただけること」、そのため「常に必要な知識やスキルを磨いておくこと」「タイミングを逸することなく行動すること」が大切であると考えています。

「健診検査の判定基準が甘くなるって話だけど・・・」といった話題が出ましたら、「これはチャンス!」と捉え、健康への理解を深めていただく機会へとつなげていただければ、と思う次第です。






■ 藤井 紀男 略歴

藤井 紀男
1987年 広島大学医学部医学科を卒業後、
大阪大学医学部附属病院、他で救急医療に従事、
その後、厚生労働省、地方自治体、他で行政官として勤務し、
2011年から (株)日立製作所の常勤産業医に