臨床医、研究者そして産業医として働く傍らで、
株式会社Studio Gift Handsの代表として視覚障害者ケア情報サイトを運営し、
ビジョンケアの紹介やコンサルタント業務を行う。
三宅 琢

 私はポジティブメンタルヘルスを得意とする産業医、視覚障害者や発達障害を持つ児童をケアする研究員、Apple製品を利用した障害者ケアのコンサルタントという三つの専門性を持ったマルチ産業医です。
 方向性の異なる三つの業種を専門としている理由は、現代の産業医業務において重要と考えられる『柔軟思考』と『合理的配慮』という考え方に深く関係があります。ここでは産業保健分野における障害者雇用の課題を中心に、産業医に求められる柔軟思考や合理的配慮の重要性について紹介させて頂きます。


 企業が検討する必要のある課題の一つに、障害者の雇用と就労における合理的配慮というものがあります。「合理的配慮」とは、「障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう。」と定義されています(障害者の権利に関する条約「第二条 定義」)。


 わかりやすく言えば、企業は障害者の雇用に関して、雇用率の達成に加えて障害者の就労環境に対する具体的な配慮を無理の無い範囲で実施する事が求められるようになり、超高齢化社会に突入した日本において、障害を持ちながら働く労働者の人数は増加すると考えられます。また私が主にケアしている視覚障害者は個別に就労上の特殊な配慮が必要とされるため、多くの企業が頭を悩ませているという現状があります。しかしその一方でデジタル機器の進歩に伴い、多くの障害者がデジタル機器を使う事で障害を持ちながら社会生活を行う事が可能になりつつあります。

 このような社会変化を背景にして今後産業医にはさまざまな場面で、柔軟な対応が問われる時代になりつつあると考えられます。そこで以下にこれまでに経験した事例から、現代の産業医に求められる柔軟思考と合理的配慮のPointを紹介させて頂きます。


■1.障害者雇用:〜障害ではなく長所を見る〜

 障害者の就労を考える上で重要になる柔軟思考は、“障害”を通して社員の働き方を考えるのではなく、障害を持つ社員の“長所”や“強み”を見つけて生かせる職場作りを提案するとい視点の変換です。そこでは何が出来ないかではなく、何が出来るかを問う姿勢が大切です。中途で障害者となった社員が知識とスキルを生かして就労を継続出来るシステム作りは、全ての社員の安心感と企業への帰属感を高め、社員のメンタルレジリエンス(回復力)を高めるため、メンタルケアの面からも大きな意味を持っています。障害者雇用における柔軟思考は、臨床の現場で求められる診断力とは異なる視点に立ち、病気や障害から社員を見るのではなく、障害が問題にならず長所の生かせる職場作りの提案が出来る思考を持つ事です。


■2.発達障害:〜それは全ての人が持つ凹凸の一部〜

 管理職が起こすメンタル不調の背景には、軽度の発達障害を基礎にしたコミュケーション能力やマネージメント能力の脆弱性が少なからず存在すると私は日々感じています。
 発達障害とは、先天的な様々な要因によって主に乳児期から幼児期にかけてその特性が現れ始める発達遅延であり、自閉症スペクトラムや学習障害、注意欠陥・多動性障害などの総称です。軽度の発達障害を持つ社員の多くは高い記憶力や計算能力等の局所的に秀でた才能を持っています。彼らは局所の分析には強い一方で、全体把握やコミュケーション能力が弱い傾向があり、部下とのコミュケーションやマネージメント能力が必要とされる管理職等についた際にメンタル不調を発症する事が多いです。そのようなシーンではこれまでの経歴にとらわれる事なく、個人のプライドに配慮しつつ彼らの才能が最も生きる分野への配置変えや企業への新分野の設立に至るまで、さまざまな柔軟なアドバイスが必要とされます。
 発達障害の社員に対する柔軟思考は、定型どおりの配置転換や休職指示ではなく、社員の才能とこれまでに築きあげた知識と経験という財産を大切にして企業に貢献できるよう、具体的な提案が出来る柔軟な思考を持つ事です。


■3.産業保健に関る者としての柔軟性

 一方で発達障害は疾患概念というよりは、強い凹凸を持った個性とも言えます。読み書きやコミュケーション等に社会生活へ支障を来すレベルで凹凸を持つ場合に、人は発達障害を持つ人として認識されて扱われて来ました。しかし軽度の発達障害を持ちながら日々働く人々はメンタル不調を契機に発見される事が多く、人が多少の凹凸を持つ事は私自身を含め全ての労働者に当てはまる事であり、人は部分的に脆弱な分野を持ち合わせて社会適応を繰り返し日々生活していると言えます。
 すなわち障害があるかどうかは問題ではなく、業務上の不便さが障害によって発生する事や就労が継続困難になる事が問題であり、それを改善するためのアドバイスを行う事が産業保健スタッフとしての働く人々への配慮です。労働者の適性配置を業務とする産業医にとって、常に労働者の凹凸をもった個性に配慮して業務改善を提案できる柔軟思考は、すべての労働者に対応する上で最も重要なスキルの一つであると私は考えます。


 柔軟思考を持ち続けるための秘訣は凹凸の強い人々の生の声に学ぶ事であり、研究員として学習障害に苦しむ児童と学び、医師として、見えない事で情報障害に陥り苦しんでいる人々とデジタル機器を用いて生活改善を試みる活動は、私の産業医としての柔軟思考を向上させる上でなくてはならない存在となっています。
 すべての産業医が柔軟思考を持つ事が、障害者を含む全ての労働者の明日を輝かせると私は本気で信じています。




■ 三宅 琢氏 略歴

三宅 琢氏
平成17年 東京医科大学卒業
平成24年 東京医科大学大学院卒業
東京医科大学 眼科 兼任助教
永田眼科クリニック 眼科 勤務医
Gift Hands 代表
平成25年 三井ホーム株式会社、佐川急便ホールディングス他 嘱託産業医
東京大学先端科学技術研究センター 特任研究員
平成26年 株式会社Studio Gift Hands 代表取締役
独立行政法人理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター
網膜再生医療研究開発プロジェクト 客員研究員

臨床医、研究者そして産業医として働く傍らで、株式会社Studio Gift Handsの代表として視覚障害者ケア情報サイトを運営し、ビジョンケアの紹介やコンサルタント業務を行う。またデジタル機器を用いた新しいケアを行うイノベーターとして全国のApple Storeや盲学校、視覚障害者支援施設や大学等でiPadとiPhoneを用いたデジタルビジョンケア(視覚に障害があるため生活に何らかの支障をきたしている人に対する医療的、教育的、職業的、社会的、福祉的、心理的支援)に関するセミナーや講演等を行っている。