産業医 加藤 里佳

 この時期は空気の乾燥が気になりますよね。先日、静岡県の一級河川では一部「瀬切れ」が起きている、なんてニュースを耳にしました。昨年10月以降の降水量が極端に少ないことが原因のようです。空気が乾燥すると、口腔内や鼻腔内の粘膜が乾燥して生体防御機能が落ちてしまい、風邪やインフルエンザなどの感染症にかかりやすくなります。また肌や髪がパサつくなど、健康面だけでなく美容面にも影響しますので特に女性にとっては大敵です。ところで、乾燥以外にも免疫力の低下や肌・髪トラブルを引き起こす原因があるってご存知ですか?

 答えは『亜鉛』不足です。

カキなどの魚介類や動物性たんぱく質等に多く含まれる亜鉛は、私たちの身体に必須な微量金属の1つとして知られています。これが欠乏すると細胞の分裂が正常に行われなくなるために成長障害や免疫不全、味覚障害など様々な異常が生じるのです。以下、代表的な影響を簡単にまとめてみます。

 ① 免疫力の低下
亜鉛は免疫細胞の膜の安定化に関与していることから、感染症等の疾患にも効果を示すことが報告されている。(1)

② 肌・髪のトラブル
亜鉛は細胞分裂に関係する酵素に含まれおり、新陳代謝に深く関係する。成長ホルモンの産生や性ホルモン活性化も促すため、皮膚のツヤなどにも関与。以前からニキビや難治性潰瘍などに効果があるとされ、軟膏薬にも臨床応用されている。

③ 記憶力
亜鉛は脳機能にも不可欠であり、脳内では記憶の中枢である海馬に多く分布する。亜鉛欠乏になるとこの海馬から亜鉛が消失し、記憶学習障害を誘発。

④ 睡眠や精神面への影響
ラットの実験では亜鉛不足により神経新生が抑制され、うつ様行動が増加。うつ発症との関連も示唆されている。また、深い眠り(ノンレム睡眠)の長さにも関係する。

 

意外にも、睡眠や精神面にも影響があるんですね。炎症を抑えたり、アンチエイジングの一役を担ったり、生殖機能にも関係するなど大活躍です。

 

亜鉛が不足すると様々は障害が起こることは分かりました。
それでは実際の我々の食卓事情はどうでしょうか。実は鉄不足と同様、日本人の亜鉛不足もまた叫ばれ始めて久しいんです。

厚生労働省では5年ごとに日本人の食事摂取基準を作成していますが、2015年版では亜鉛の1日推奨量を成人男女で各々10mg/day8 mg/day(妊婦は、+ 23mg)と制定しています。しかし、国民健康・栄養調査報告(2017)を見ると男女ともに摂取がやや不足していることが分かります。(2

ある研究では、日本人の一般的な献立による1日亜鉛摂取量は平均9mgに満たない程度であると算出され、特に若い女性の摂取量はわずか6.5mg程度であると報告されました。

それでは亜鉛が欠乏する原因はどこにあるのでしょうか。以下にいくつかまとめてみます。

 ① 摂取不足
そもそも日常的に亜鉛摂取量が少ない。特に動物性たんぱく質の摂取不足。

② 加工食品・精製食品の影響
加工食品や精製食品などは亜鉛含有量が低いことが知られている。また、精製食品には食品添加物としての亜鉛キレート剤が含まれているため吸収が悪くなる。

③ アルコールの過剰摂取
アルコールを分解する酵素であるアセトアルデヒド脱水素酵素の活性には亜鉛が必須。アルコール多飲者では亜鉛が欠乏した状態に。(3)

④ ストレス
精神的なストレスがかかると、亜鉛の尿中排泄が増加することが報告されている。(4)

⑤ その他
利尿剤などの薬物服用や、腎臓や肝臓の疾患、糖尿病など。

 

現代の日本の食卓は60%以上が加工食品で占められています。忙しいとついコンビニ弁当で食事を済ませてしまう、なんて方も多いのではないでしょうか。また、現代人は仕事や家庭による様々なストレスを抱えています。知らないうちに、亜鉛の吸収が悪い食環境になっているかもしれません。食事のカロリーだけではなく、栄養素にも意識を向けたいところですね。何を食べるかで身体は変わります。今からでも遅くはありません!

 

ちなみに耐容上限量については,成人男性が4045mg/day、成人女性が35mg/dayと設定されていますので、摂りすぎないようにすることも大切です。

 

【参考文献】
(1)Mocchegiani E. et.al. (2000) Trends in Pharm Sci. 21(6)205-208.
(2)厚生労働省ホームページ「日本人の食事摂取基準」「国民健康・栄養調査(平成29)
(3)McClain C. & Su L.C. (1983) Clin & Exp Res.7(1)5-10.
(4)Shah K. & Yan A.C. (2008) Ped RDerm.25(1)56-59.

 

■加藤 里佳 【略歴】

医学博士/産業医/メンタルヘルス法務主任者

東京医科大学卒業後、東京大学医学部附属病院にて研修および博士課程を修了。アレルギー・リウマチ内科での臨床経験を経て、現在は都内クリニックで内科診療を行いながら、複数の企業で嘱託産業医として活動中。