産業医科大学産業衛生教授 浜口 伝博

 

 新年が始まりました。

 今年は年内に元号も変わりますので、まさに時代の名前が変わる年。新時代感があります。

 変わるといえば、年来の「働き方改革」が徐々に産業界に浸透し労働者の「働き方」も変化しつつあります。きっとその影響は「生活の過ごし方」や「人生の過ごし方」にも変化を及ぼしていくことでしょう。
職場変化の第一は何と言っても残業規制の強化です。今年4月から始まる労働基準法改正による残業時間の上限規制は、今まで事実上青天井だった残業時間に対して、きっぱりと上限値を設定した点でまさに画期的な変革です。


内容を簡単に整理しておくと、労使が合意した上で、まずは残業の上限は「月45 時間、年360 時間」までとなります。しかし特例としてこの上限を超える場合も許可されていて、臨時の事情がある場合においてさえ、時間外の最大値は年720時間を超えてはいけないとされています。それに加えて、

① さかのぼる、どの2カ月、3カ月、4カ月、5カ月、6カ月をとっても、平均で休日労働を含んで月残業が80 時間以内であること

② どの単月をみても、休日労働を含んで月残業が100 時間未満であること

③ 月45 時間を超える時間外労働の月回数は年6回までとすること

という規制になっています。

残業規制はこれまで大臣告示となっていましたが、今年からは法律規制となりますので違反者には罰則が適応されます。企業への刑事罰が即時強行されるのです。社会的な風評被害どころではなく実質的な社会罰が適応されますのでそのダメージは過去の比ではありません

これら一連の強化には、職場から徹底して「過労死」を出さない!との行政府の強い決意を感じます。

かたや昨年12月、報道によると東欧ハンガリーでは年間400時間まで残業させることを求める法案が議会通過をし、それに反対する数千人規模の国民抗議行動があったとのこと。日本では何とか年間MAX720時間まで下げたのに、ハンガリーでは何とか年間残業時間を400時間にまで上げたいとのこと。残業時間ってどの辺が落としどころなんでしょうか?

 

日本では法改正を先取りして残業時間の削減に取り組んでいる企業が出始めています。法が施行されるこの4月以降は実際に残業が減るでしょうから、長時間労働者数も減少しますので産業医による過重労働面接も激減することが予想されます。
残業が減ることは労働者の健康維持にも役立ちますし、会社としても医師面接設定の事務も減り、産業医も時間的余裕ができていつも後回しにしていた検討課題に取り組むことができるようになります。誰にとってもいい制度です。

 ・・・って思っていたら、とあるネットニュースが「社会生活基本調査(総務省平成28年)」データを見ながらおもしろい指摘をしていました。

それによると、男性女性でそれぞれ「残業あり群」と「残業なし群」を比較してみたら、
男性の「残業なし群」は「残業あり群」と比べて257分、
女性の「残業なし群」は同じく164分、より多くの余暇時間をそれぞれ持っているとのこと。
まあ、それはそうでしょう。さて問題なのは、その増えた分の時間を、男性は睡眠にまず65分を費やし、残りを「趣味・娯楽」「テレビ・新聞」「休養」に187分を割り当てるものの、逆に「家事・育児」時間はマイナス2分になっているという。女性の場合は、浮いた164分を睡眠に31分増やし、そして「家事・育児」に70分増やしているとのこと。
どうも男性は余暇時間を自分のためにだけに使う傾向があり、女性はその時間を家庭のために確保する、という傾向が明瞭になったデータでした。

残業が減れば男性はいつもより早めに帰宅して、家事子育てを手伝いながら家族団らんを楽しみ、良質な睡眠を確保して、翌日への精気を養うものと予想するわけですが、現実はどうも期待通りにならないらしいことにちょっと驚きました。

 

日本は「働き方改革」だけでなく「休み方改革」も進めないと男性は余暇時間を有効に活用できず、ただ家でテレビを見ているだけという風体のようです。冒頭部分で、新年、変化、新時代、と言ってはみたものの、社会は変わっても生活面では何も「変わらない」という可能性があるわけで、やはり新年を期して生活全体の「過ごし方」を見直してみる必要があるように思います。生活の「過ごし方」を変えることは、人生の「過ごし方」を変えることにつながるからです。

産業社会の変化は人を待ってはくれません。

「働き方」の変化を、生活の「過ごし方」の順風にできるか、逆風にしてしまうかは、その人の人生態度で決まります。社会変化のスピードをドライブのように楽しみながら、人生の「過ごし方」を考えたいものですね。