(一社)ふくい産業医・産業保健研究所 代表理事 
真﨑 竜邦

うつ病を中心としたメンタルヘルス不調者が増加の一途をたどっていることは皆さんご存知の通りです。大部分の不調者は(不調になった当初は)企業で働く労働者ですから、ほとんどの場合で「職場復帰」の問題に直面します。職場復帰は焦らないほうが良い、というのはよく知られたことですが、現実には焦って職場に戻り、病状が再度悪化し、再休職に至ってしまう方が多いのも事実です。

そこで今回のコラムでは復職を焦らないほうが良い理由について、いつもと少し視点を変えて、金銭的な面から考えてみたいと思います。

まずは、なぜ復職を焦るのか、という理由の確認からです。人によっていろいろな理由があるでしょうが、
①みんなに迷惑をかけているから…、
②働かないと金銭的にきついから…、
といったところが大きいのではないでしょうか。

実際、休職中は給料が入らないわけですから、金銭的にはきついかもしれません。また、そのような気持ちでは療養自体もうまくいかないという考え方もあるかもしれません。一方で、この考え方には、休職せざるをえなくなった病気が良くなったかどうか、という視点が抜けています。自分の体はどうでもいいから、とりあえず(生活資金を)何とかしなければ、という焦りの気持ちだけから職場復帰を希望している場合が多いように感じます。

 確かに職場復帰を果たせば、金銭的には落ち着くかもしれません。ただ、これは職場復帰がうまくいく、ということを前提にしています。Pintorらは完全寛解(病状がある程度回復し安定した状態)に達していない患者群は、達した患者群に対して再発率が 4.5倍高かった、と報告(2003)しています。すなわち、金銭的にきついからと言って、病状が落ち着いていないのに職場復帰をしたとしても、再発する可能性が高いということを意味しています。無理して職場復帰をしても再発・再休職してしまえば、元の木阿弥です。

 日本には「傷病手当金」という、とてもすばらしい制度があります。これは傷病休職中、16カ月の間、標準報酬月額の3分の2を健康保険から支給してもらえるという制度です。とてもありがたい制度ですが、休職者にとって非常に重要な支給期間にいての詳細を知らない方が少なくありません。ポイントは
①支給は病名ごとにされるのではなく、同じ病気やケガ、またはその病気やケガから発症した病気やケガについて支給開始日から16ヶ月と決まっていること(つまり、うつ状態、適応障害、うつ病と病名が変わっても同一系統疾患として支給は16カ月間のみ)、
②同じ病気やケガなら途中で働いて、また休んでも支給期間は変わらない
ということです。

注意しなければいけないのは②です。下図にもありますが、いったん職場復帰をした後、再休職した場合でも、傷病手当金の支給期間は最初の支給開始日(起算日)から16ヶ月のまま変わらないということです。つまり職場復帰をしても支給期間はリセットされませんし、休んだ期間の合計が16ヶ月になるまで、という意味でもありません。

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つまり病状が完全ではないのに、金銭的なことが気になり、無理をして職場復帰をしたとしても、先にお話ししたように再発率は高く、再休職になる可能性も高まります。結果として休職復職を繰り返しているうちに、傷病手当金の支給期間が終わってしまえば、金銭的にも困窮することになります。金銭的に困窮すれば、当然、精神衛生上もよくないので、病気の改善が遅れる/悪化するという悪循環に入ってしまいます。

これらから言えることは、少しでも経済的保障のあるうちに、できるだけ病状をよくして、安定的に仕事ができる状態に持っていくこと、すなわち焦らずしっかり復職の準備をしてから復職する、ということが、中長期的な意味で金銭的に(メンタルヘルス不調の性質としても)安定する方法であるということです。
不調の時は将来を悲観しているようでいながら、目先のことしか見えていないことが多くなっています。自分が調子を崩しているときはもちろん、周囲に調子を崩している方がいるときには、今回のお話を参考に、焦らず復職の準備をしっかりとしてくるように伝えていただければ幸いです。


■ 真崎 竜邦 略歴

真崎 竜邦
H11年3月 福井医科大学 医学部 医学科 卒業
以後、大阪府立病院、京都第二赤十字病院、公立丹南病院、福井大学病院、福井赤十字病院、福井県立病院 にて消化器内科医として勤務
H23年~ (財)福井県予防医学協会 にて健診・産業保健業務に従事
H24年~ アイシン・エィ・ダブリュ工業(株) 専属産業医(現職)
H25年~ まさき産業医事務所 代表 (現職)

【資格】
・ 労働衛生コンサルタント(保健衛生)
・ 第2種作業環境測定士
・ 衛生工学衛生管理者

【コメント】
県内最大手企業にて専属産業医として、日々実務を行っています。内科医師、作業環境測定士、衛生工学衛生管理者としての知識も生かし、企業の現状に即した、健康管理体制、作業管理体制、作業環境管理体制の提案から、メンタルヘルス対策、衛生教育、新入社員教育などの教育業務を行っています。