産業医 藤井 紀男

 今回は、労働安全衛生マネジメントシステム(Occupational Safety and Health Management System 以下「OSHMS」という)のお話をさせていただこうと思います。労働衛生に関わる皆さんにとっては衛生管理者や労働衛生コンサルタント試験の出題ポイントの一つでもありますので、一度は目にされている言葉だと思います。ここでは、その内容を詳細に解説させていただくつもりはありませんが、実は私、現在担当している事業所でのOSHMS構築を目論んでいます。そこで、現在、改めて勉強し直しているところですが、その過程で気づいた点などを皆さんと共有させていただければと思います。

 

OSHMSとは何か?

 各種解説では、「リスクアセスメントの結果をもとにPDCA(PlanDoCheckAct)という一連のサイクルを回す仕組み」、「事業者が構ずるべき機械、設備、化学物質等についての具体的な措置を定めるものではなく、安全衛生管理に関する仕組み」と説明されています。つまり、OSHMSの「System」は「仕組み=物事の組み立て、構造=物事を構成する各要素の機能的な関連やその全体像」と理解されます。平たく言えば、OSHMSは労働衛生に関する種々の決め事や関連文章、役割分担などを整理する「整理棚」といったイメージでしょうか。散らかった部屋も棚を作って整理すればすっきりします。新しいものを買ったら古いものを整理する、定期的に冬物と夏物を入れ替えるなどのメンテナンスをすれば、いつでも使いやすい状態を維持できます。そんなイメージでOSHMSを捉えると、とっつきやすいものに感じられるかも知れません。

 

なぜOSHMSが必要か?                              

 OSHMSが必要とされる背景として、「これまでの安全衛生管理は、法令違反をしないことに主眼が置かれがちだが、生産工程などの多様化に伴い法令上の規制のない危険性・有害性も増加している」「日常的な安全衛生活動の結果を集約・評価し、事業所全体として計画的な改善措置を行う仕組みがないと、対策の濃淡や必要な対策の抜け落ちが生じる可能性がある」「ベテラン担当者の退職などに伴い、そのノウハウが十分に継承されずに安全衛生管理の水準が低下する危惧がある」などがあげられています。これまで俗人的になりがちだった安全衛生管理のノウハウを組織としてオーソライズし、かつ法律で明記されていないような状況に対しても柔軟かつ適切に対応するためには、OSHMSが有効ということでしょう。

 

OSHMSの構築は大変な作業か?

 しかし、OSHMSは「手間がかかる」「大量の文章や書類を整備しなければならない」といったイメージが否めません。指針では、安全衛生方針の表明、安全衛生目標の設定、危険性又は有害性等の調査(リスクアセスメント)に基づき講ずる措置、安全衛生計画の作成・実施・評価・改善を体系的・継続的に実施するための文書類、業務規定類や作業手順書・基準書、記録類などの整備が求められています。これらの労力と構築のメリットを天秤にかけるとき、なかなか積極的な気持ちになれないというのも現実かもしれません。

 

改めて気付いたOSHMSの活用法!

 私事ですが、数ヶ月前から新たな事業所で産業医活動を始めました。グループ内の体制変更などに伴って新たにグループ全体の産業保健体制を整備することとなり、今後、グループ各社が行っているやり方を標準化し、手薄な部分を強化していくことが課題となります。そこで思いついたのがOSHMSの活用です。OSHMSを「整理棚」と捉え、どんな棚を作ろうか、その棚に過重労働対策、メンタルヘルス対策、健康診断/事後指導などのメニューをどう並べようかなどと考えながら、各社のやり方を集め、整理をし始めました。私の担当する事業所はいわゆるオフィス系ですので、化学物質や生産ラインを管理する工場などのOSHMSとはイメージが異なると思います。しかし、この方法を用いることで、複数の関係者間での共通認識を確保しながら、客観的かつ効率的に作業をすすめることができるのではないかと期待しています。

 

健康管理・衛生管理でのOSHMSの活用!!

 OSHMSは化学物質などのリスクアセスメントとセットで説明されていることが多く、工場などの生産現場で活用するもの、というイメージがあるかもしれません。しかし、健康管理・衛生管理が中心のオフィス系事業所でも活用するメリットは大きいのはないかと思っています。産業医大には、OSHMSを基礎とした包括的産業保健プログラム実施事業所認定(OH認証)という認証制度もあります。我が社のOSHMSがどのような形でできあがっていくか?まだ取り掛かったばかりではありますが、今後とも途中経過なりをご報告できればと思います。

 皆さまも、今一度、OSHMSの意義を再認識し、その考え方を活用していただいてはいかがでしょうか?

■ 藤井 紀男 略歴

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1987年~広島大学医学部医学科卒業、大阪大学附属病院等(三次救急医療に従事)
1994年~厚生労働省等(本省、地方自治体、検疫所、研究所等で勤務)
2011年~(株)日立製作所産業医(大森、新川崎、小田原地区を担当)
2016年~(株)AIGビジネス・パートナーズ産業医(AIGジャパングループを担当)

【資格】
・ 2011年  日本医師会認定産業医
・ 2012年  労働衛生コンサルタント(保健衛生)
・ 2013年  キャリア・コンサルティング技能士(2級)