産業医 林 幹浩

企業のメンタルヘルスに関わる仕事をしていると、心を傷めてしまった方への対応をさせていただくこととなります。

本人にとっても会社にとっても困り事であることに対応して、傷んだ方の心に寄り添いながら、フェアなやり方で環境整備を行っていく、つまり精神衛生と組織公正を両立させる、所謂「愛とルールの個別対応」が仕事の大事な部分になります。

精神衛生にかかる医学知識と人事労務にかかる法的知識を当然の前提に、多くの事例の経験で培われたアートフルな対応が求められる仕事であり、プロフェッショナリズムが要求される、その意味でやりがいがある、社会的にも意義のある大事な仕事であると認識して、誇りをもって精進しています。

 一方で、そうした個別対応をする中でしばしば感じていたのは「もっと手前でやれることがあるはず」という思いでした。

 以前もこちらのコラムで「経営トップのメッセージの出し方ひとつで問題が解決する場合がある」と書かせていただいたことがありますが、メンタルヘルス不調の発症の根本的な原因が、組織運営・リーダーシップといった経営の根幹と不可分だということは、日々痛感するところです。

 組織は、(当たり前のことでしょうが)そもそも有能で意欲の高い人材だけで構成されていることを前提とすべきではありません。一人の人間がそうであるように、組織も、不完全さを抱え込み、悩み迷い、能力を顕在化させることに苦労しているのが通常の姿です。人間が複数いればスキルや意識に凸凹があるのが当たり前で、経営者はそうしたチームを引っ張っていけるかどうか(あるいは引っ張っていけるチームリーダーを擁して行けるかどうか)が問われているといえます。

 これは、メンタル不調者がいる・いないにかかわらず必要とされるリーダーシップだと言えますが、これがメンタル不調者を出さないことにつながることとなり、またターンオーバーやプレゼンティーズムの改善といった成果につながることでもあることが、近年明らかになりつつあります。

 雇用の世界ではdiversity拡大の必要性が叫ばれ、障害者雇用についても、関係法の改正でいよいよ「合理的配慮」が事業者に求められることとなりました。

こうした流れを、「気を遣いましょう」という文脈でとらえると本質を見失うことになりかねません。組織の中にいろいろな人がいることを前提に、障害者については「何ができないか」ではなく「何ができるのか」に焦点を当てて(そのように考えると技術的・人的サポートとして何が必要かが見えてきます)、それぞれがその力を発揮しながらチームとしてのアウトカムを最大化できるよう組織設計をするといった姿勢が大切だといえるでしょう。そのことを本質的な意味で担保するのはやはり現場のリーダーです。

つまり、リーダーの在り方こそが問われているといえるのではないでしょうか。

 このところ、メンタル不調への対応というだけでなく、「元気な組織を作る」ための仕事に携わらせていただくことが増えています。

メンタル不調者を出さないように気を遣いましょう、というのではなく、脆弱性をかかえたメンバーが存在することを前提に、それぞれのベクトルを合わせ、チームとしての成果と個人の成長を整合させていく、そのための組織コンサルティングや、リーダーに対するスキルアップ研修やコーチングといった仕事です。

近年、経営学と心理学の両面からこの分野の研究が大きく進展して、方法論についての知見の蓄積も進んでいます。関わらせていただいた現場からご好評いただいているのもありがたいことです。

 「凸凹の組織で成果を出せるリーダー」がますます求められる時代。

そうしたリーダーを一人でも多く輩出する仕事に微力ながら貢献していきたいと思っています。

 

■ 林 幹浩 略歴

林 幹浩

経済産業政策、ベンチャー企業経営、臨床医療に携わる。
現在、総合診療医として現場に立ちつつ、さまざまな業態の会社の嘱託産業医を務める。