武蔵大学 経済学部 経営学科 教授
森永 雄太

 

日本には昔から「あちらをたてればこちらがたたず」という表現がありますが、私たちは様々な集団に属していて、それぞれの集団で役割を担っています。この複数の役割を同時に遂行しようとする際に感じる葛藤を役割葛藤と呼びます。このうち、特に家庭での役割と職場での役割の間で生じる役割間葛藤を「ワーク・ファミリーコンフリクト」と呼びます。共働き世帯が増えてきたことで、ワーク・ファミリーコンフリクトの解消が重要視されるようになって来ました。

 

ワーク・ファミリーコンフリクトはなぜ生じるのでしょうか。経営学の代表研究では、時間、ストレイン、行動の3つを挙げています。以下ではGreenhaus, J. H., & Beutell, N. J. (1985).に基づいて、紹介していきます。

 

1点目の「時間による葛藤」は、まさに「時間の奪い合い」の側面です。労働時間が長く、夜遅くまで会社にいれば、子どものお迎えや、夕食を作る係など、家庭で求められる役割を遂行しづらいでしょう。また休日出勤などの勤務形態が家庭での役割遂行に支障をもたらす原因となるケースもありえます。

2点目の「ストレインによる葛藤」は、一方の役割で強いられた緊張や疲れによって、もう一方の役割遂行に支障をきたす状況です。短い時間でも非常に負荷の高い仕事に取り組み、へとへとになってしまっている時には、仮に時間があっても家事に取り組めないかもしれません。また育児で大きな悩みを抱えている場合には、仕事中にも悩みを引きずってしまい、業務に支障が出ることがあります。

 

3点目は「行動による葛藤」です。職場で上司や同僚と議論する時には論理的に話すことで生産的なやり取りができるかもしれません。しかし家庭で小さな子どもと話す時にも同じように振舞うことが必ずしも良いとは限りません。このように、一方で求められる行動様式と他方で求められる行動様式とが異なる場合に「行動による葛藤」が生じます。

 

私たちは、家庭と仕事の両立といった時に、ついつい時間のやりくりだけに注目してしまいがちです。また実際に、その「時間のやりくり」自体が難しいということも多いのだとは思います。しかし、あなたの周りにはそれほど残業がない従業員や、「時短勤務」の従業員でもワーク・ファミリーコンフリクトに直面している従業員がいるかもしれません。そういう時には、時間以外の2つの要因が原因かもしれません。これらの観点にも注目してみることが、ワーク・ファミリーコンフリクト解消の糸口になるかもしれません。

 

<参考文献>
Greenhaus, J. H., & Beutell, N. J. (1985). Sources of conflict between work and family roles. Academy of management review, 10(1), 76-88.

 

■森永 雄太【略歴】
神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。博士(経営学)。
専門は組織行動論、経営管理論。
主要著作は『ウェルビーイング経営の考え方と進め方 - 健康経営の新展開 -』(労働新聞社)等。
2016年、健康経営を経営視点から取り組む企業横断研究会(HHH
の会)で副座長を務める。2019年日本労務学会研究奨励賞受賞。